1 :
みんなの暇つぶしさん:2010/12/25(土) 02:38:02 ID:L2w7qlHk
女勇者「あれから半年……傷心癒えぬまま、魔王が目指していた未来の為にあたしも立ち上がった」

女勇者「魔王の死を信じきれず、農商国家に残り、騎士として現魔王の側近さんの下で働いた」

女勇者「仕事は忙しくて大変だったけど……それ以上に受け入れ難い現実が辛くて苦しくて……」

女勇者「どれだけ悲しい思いをしたというのか」ギリギリ

魔王「……よもや怨まれる程に悲しんでるとは俺も、げほ」


2 :
みんなの暇つぶしさん:2010/12/25(土) 02:43:59 ID:L2w7qlHk
女勇者「全くさー。いいけどさー、もー、こうしていてくれているんだからー」

魔王「げほごほ……それはそうと仕事はいいのか?騎士だろう?」

女勇者「魔王こそ、いい加減辞任取り消して、元に戻ればいいのに」

魔王「側近が十分にやっているからな。俺は必要ないだろう」

女勇者「魔王が生きていることが分かった途端、復帰の嘆願書が殺到しているんだけど」

魔王「正直、肉体労働ばかりで、政治とかは任せっきりだったからな。魔王でなくてもいいんじゃないかと思う」

女勇者「どんな国王だ、それ」


3 :
みんなの暇つぶしさん:2010/12/25(土) 02:48:51 ID:L2w7qlHk
女勇者「とりあえず、はいこれ」ドッサ

魔王「……この紙の量はとりあえずじゃないだろう」

女勇者「これ全部魔王復帰の嘆願書だから」

女勇者「仮にも自分が守った民の声。無視するなんて事は無いよね?」

魔王「いや……うむ、いや……これは普通に上で寝れるほどの山だぞ?」

女勇者「それだけ支持されていたって事じゃない。喜びなよー」


4 :
みんなの暇つぶしさん:2010/12/25(土) 02:55:10 ID:L2w7qlHk
『荒ぶる魔王様の悲報を聞いた時は〜〜是非とも、私達を導いて〜〜』

『我らの王!我らの王!我らの王!』

『元は旅人だった私ですが、魔王様の事は賊狩りの頃より〜〜何卒、この国の主として〜〜』

『我らの王!我らの王!我らの王!我らの王!我らの王!』

『魔王様こそこの国の救世主!先代を討ち取り私達の未来を切り開いた方にまた国長を〜』

『我らの王!我らの王!我らの王!我らの王!我らの王!我らの王!我らの王!』

魔王「何だこれは?」

女勇者「嘆願書」

魔王「明らかおかしい文面がいくつもあるぞ、俺がいない間に何が起こった」

女勇者「別に何も無かったけど?」

魔王「もうなんというか、怪しい臭いしかしない宗教に見える」


5 :
みんなの暇つぶしさん:2010/12/25(土) 03:01:28 ID:L2w7qlHk
女勇者「まあ、その辺りは一先ず置いて、明日は出かけるんだからね」

魔王「何処に……ああ、協議があったのか」

魔王「ちょっと待て。その言い方からすると俺も連行されるのか」

女勇者「他の魔王に迷惑かけてたんだよー?水の魔王とか泣いちゃってたんだからね?」

魔王「……そういえば、死んだ扱いだったな。ま、挨拶がてら付き合うか」

女勇者「うん、魔王再就任の為にもね」

魔王(……逃走ルートを確保しておかないとだな)


6 :
みんなの暇つぶしさん:2010/12/25(土) 03:13:26 ID:L2w7qlHk
側近「だいたい、貴方という人は魔王としての自覚がですね」クドクド

魔王「いやぁ、貴方様の仰るとおり!正に魔王の鏡!農商国家は安泰だ!」

側近「そもそも、あんな簡単に魔王を辞任するとは何事ですか!責任というものがですね」クドクド

魔王「」ドクドク

女勇者「説教をしながら得物を振り下ろす図はどうかと思いますよ」

側近「今に始まった事ではありませんので」

女勇者「あー……それなら問題ありませんね!」

魔王「いや、どうなんだ?そりゃあ魔王じゃないけどさ、今は」ドクドク


7 :
みんなの暇つぶしさん:2010/12/25(土) 03:16:50 ID:L2w7qlHk
魔王「一魔王が、一魔族を平気で得物で叩き流血させる。これ如何に?」

側近「ええ、先代の魔王様でしたら流血じゃ済みませんでしたからね」

魔王「あーあの大男じゃあ、良くてミンチとかだろうな。でもそれとこれとは別の話だろ」

側近「なら再就任しますか?魔王が一般人を虐げる図はなくなりますよ?」

魔王「……魔王になったら殴らないというのか?」

側近「まっさか」

魔王「ですよねー」

女勇者(こんなやりとりで国を統治していたんだよなぁ……)


8 :
みんなの暇つぶしさん:2010/12/25(土) 03:20:34 ID:L2w7qlHk
魔王「で、今回出席する国は?」

側近「えー……剣、水、山岳、火、樹海、潮風、砂炎、闇の八カ国ですね」

魔王「凄い数だな。砂炎とか出てくるの何十年ぶりだ?」

側近「さあ?十四、五年くらいでしょうか?」

女勇者「最後の二カ国はあまり聞いた事がないんだけど……どういう所?」


9 :
みんなの暇つぶしさん:2010/12/25(土) 03:26:04 ID:L2w7qlHk
魔王「知らなくてもしょうがないな」

側近「砂の炎と書くサエンの国は周囲が岩山で囲まれ、土地の殆どが砂漠化してしまい」

側近「異常な気候が形成された国で、一年の殆どが猛暑で日中は砂が焼けるような光景で知られています」

側近「一応は侵略派であるものの、土地柄他国との接点があまり無く、国自体がインドアでした」

魔王「一度お忍びで行ってみたが、兵士達の熟練度はそれなりだったな」

側近「決して気性が荒い訳ではないので、良くも悪くもという事ですね」

魔王「侵略派らしからぬ侵略派、という皮肉があったが、誰一人として彼らの前でそれを言えた者はいなかったな」

魔王「で、闇の国は砂炎の近くの国なんだが、固い岩盤を掘り出した……地下帝国なんだ」

女勇者「それで闇、と」


10 :
みんなの暇つぶしさん:2010/12/25(土) 03:30:44 ID:L2w7qlHk
魔王「住民の構成がほぼ魔物という変わりようでな」

側近「しかも洞窟に住まう甲殻類や蝙蝠等……まあ取っ付きにくい国ですね」

女勇者「闇の国も侵略派だったの?」

側近「いえ、他に類を見ない中立でしたね」

魔王「というよりは無関心だっただけだ」

魔王「それこそ、本当に鎖国状態なんだからな」

魔王「今現在あそこの国の魔王と接触した事があるのは、断ち切る魔王と水の魔王だけだろうな」


11 :
みんなの暇つぶしさん:2010/12/25(土) 03:37:19 ID:L2w7qlHk
女勇者「魔王としては会ってみたい?」

魔王「聞いた話だと、相当癖のある人物らしいからなぁ」

側近「私は正直お会いしたくないですね」

魔王「望もうと望むまいと、明日の協議で顔を合わせる事にはなるんだがな」

女勇者(……やっぱりどう見ても、魔王が農商国家代表だよなぁ)


12 :
みんなの暇つぶしさん:2010/12/25(土) 03:44:34 ID:L2w7qlHk
水の都市 協議

ざわざわ
「あの方はまさか……」
「そんな馬鹿な、俺は式に参列したぞ……」
「知らないのか?しばらく前に甦ったとの」

側近「ちょっとした混乱を招いているようですね」

魔王「というか今日は人数多いな。兵士とか家臣なんかも来ているんじゃないか?」

女勇者「南の大陸へのアプローチの件があるからね」

女勇者「政治面以外もって事で、今回の協議は他の職位の出席が許可されているんだよ」

魔王「あー……当たり前だが、お前もそれらしい雰囲気になったな」


13 :
みんなの暇つぶしさん:2010/12/25(土) 03:48:01 ID:L2w7qlHk
水の魔王「これより協議を行います」

水の魔王「が……慈しむ魔王より何か伝える事はありますか?」

魔王「……え?お前、それを継いだのか?」

側近「継がされたんです」

女勇者「かなり無理やりだったね」

断ち切る魔王「……」
山の魔王「……」
火の魔王「……」
深緑の魔王「……」フイ

魔王「隠す意思は無いのか、主犯格」


14 :
みんなの暇つぶしさん:2010/12/25(土) 03:54:05 ID:L2w7qlHk
深緑の魔王「ギブ!ギブ!女性にする技じゃないよっ!」

側近「今の所、荒ぶる魔王の再就任の予定はありません」

魔王「……正式にそう言ってしまっていいのか?お前が一番、俺を魔王に戻したいんじゃないのか?」ギリギリ

側近「ええ。どうせ国にはいるのでしょう。正式にならずともしっかりと働いてもらいます」

魔王「……死の島に帰るか」

側近「捕縛!」

女勇者「イエッサー!」


15 :
みんなの暇つぶしさん:2010/12/25(土) 03:58:38 ID:L2w7qlHk
魔王「何でこんな扱い」シクシク

水の魔王「えー……こほん、それでは協議を始めます」

水の魔王「現状、人間側は抗戦の構えはないものの、可能ならこちらの介入を認めない……」

魔王「そういえば、うちの所の双剣騎士はどうしてる?」

側近「へ?ああ……それが、魔王様が亡くなってしばらく後に、突如行方不明に」

魔王「そうか、安心した」

側近「……え?」

水の魔王「コホン、飽くまで協議の場なんですからね」


16 :
みんなの暇つぶしさん:2010/12/25(土) 04:05:07 ID:L2w7qlHk
深緑の魔王(やーい、注意されてやんのー)

魔王「……」

深緑の魔王(何処の子供だよ、全く。そのままレッドカードも貰っちゃえー)

魔王「……」ピク

深緑の魔王(帰れ!帰れ!カ・エ・レ!)


水の魔王「何をなさっているのですか?」

魔王「いえ、ただのスキンシップを」ギリギリ


17 :
みんなの暇つぶしさん:2010/12/25(土) 04:11:38 ID:L2w7qlHk
魔王「流石に追い出されたか……」

魔王(にしても、何であんなに絡まれたんだ?)

魔王「……ああ、そうか。俺にとってはほんの少し会わなかっただけだが」

魔王「周りからしてみれば、今生の別れの後、しばらくして会えたんだものな」

魔王「……後で真面目に頭下げてくるか」


18 :
みんなの暇つぶしさん:2010/12/25(土) 10:50:19 ID:L2w7qlHk
魔王(南の大陸へのコンタクトか)

魔王(……となるとあれを進めるか)

魔王(正直、面倒だがやるしかないよな)

魔王(今までみたく悠長な時間の使い方は許されない)

魔王(一分一秒が、今までの何倍もの重みになる、か……)

魔王(あー……先ずは説明か。気が重いし、したくない。嫌なものだ)


19 :
みんなの暇つぶしさん:2010/12/25(土) 10:55:31 ID:L2w7qlHk
断ち切る魔王「協議は終わった。今度はお前の説教会だ、入れ」

魔王(潮風と砂炎と闇は帰ったか……断ち切る魔王以外いつものメンバーだな)

断ち切る魔王「全く……来てそうそうふざける奴があるか」

深緑の魔王「そーだそーだ」

魔王「……まあ、協議の場から逃げたかったのもあったんだけどな」

女勇者「どういう事?」

魔王「言い難い事だがな、闇の国の這い寄る魔王……俺とお前を見比べながら舌なめずりしていたんだ」

女勇者「闇の国のってあの女性……ま、魔王!誘惑されたら駄目なんだからね!」

魔王「それもあるが……いやーあの眼はお前も含まれたぞ」


20 :
みんなの暇つぶしさん:2010/12/25(土) 11:05:34 ID:L2w7qlHk
深緑の魔王「っぶ、ははははは、やったじゃない!合併しちゃいなよ!あはははははは!」

火の魔王「残念ながら、お前にも熱い視線が送られていたぞ」

深緑の魔王「はは……っは?」

山の魔王「無論、我々にもな」

魔王「ストライクゾーン広すぎだな……各自、少しでも身に纏わりつく糸に気づいたら警戒するように」


21 :
みんなの暇つぶしさん:2010/12/25(土) 11:10:00 ID:L2w7qlHk
女勇者「え……糸?どういう事?」

魔王「お前……いや、闇の国とか知らなくてもいいとして、魔王の本来の姿とか知らないのか」

側近「あー、日々の業務ですっかり基礎知識が抜けていましたね」

断ち切る魔王「仕方もあるまい。荒ぶる魔王が臥せたタイミングも悪いだろうに」

魔王「えー……それ俺の所為なのか?」

断ち切る魔王「そう言うな。軽く俺の方で説明してやる」キュッキュッキュッ


22 :
みんなの暇つぶしさん:2010/12/25(土) 11:13:39 ID:L2w7qlHk
農商国家 荒ぶる魔王  角と翼
山岳都市 山の魔王   ゴーレム
高山都市 狩る魔王   ロック鳥
剣の国  断ち切る魔王 鎧大将軍(巨人)
潮風の国 波紋の魔王  竜巻を纏った水龍
砂炎の国 枯渇の魔王  サンドワーム
連合都市 束ねる魔王  ドラゴン
水の都市 水の魔王   水龍
闇の国  這い寄る魔王 大蜘蛛
樹海の国 深緑の魔王  菌糸類

断ち切る魔王「これが大まかな表だ。見て分かるとは思うが左から国名、魔王名、各魔王の本来の姿だ」

断ち切る魔王「今日顔を会わせたから分かると思うが、下三人は女性だ」

女勇者(どうしよう、純粋に聞きたい事と、ツッコミたい事が多すぎる)


23 :
みんなの暇つぶしさん:2010/12/25(土) 11:16:13 ID:L2w7qlHk
魔王「角と翼って……扱い酷いな、おい」

断ち切る魔王「巨大化しない上に、お前の姿は知っているのだろう?」

魔王「いやしかし……だが……うーむ」ブツブツ

断ち切る魔王「ちなみにお前がいない間に、侵略派で小さい国は連合都市として合併」

魔王「何となくそんな気はした」

断ち切る魔王「近いうちに高山都市は山岳都市に合併される」

魔王「それは知らな……てか流しそうになったが、結局俺が現魔王の扱いか」


24 :
みんなの暇つぶしさん:2010/12/25(土) 11:19:04 ID:L2w7qlHk
魔王「一応言っておくと、山岳都市は高山都市から派生した国で、兄弟国そのものだ」

女勇者「へーそうだったんだ」

魔王「高山都市は山岳都市よりも更に山脈の奥地に存在する」

女勇者「ふむふむ……あ、もしかして全く協議に出てこない理由って」

魔王「単純に距離が長い事と、手前の山岳都市に行かせた方が楽な事だな」

魔王「高山都市の狩る魔王は巨大な鳥、ロック鳥だ。翼持ちだから交通の不便さは理由にならん」


25 :
みんなの暇つぶしさん:2010/12/25(土) 11:23:59 ID:L2w7qlHk
女勇者「なるほどなるほど……というか名前じゃ本来の姿がどういうのか分からない人が……」

魔王「順に説明していくか。断ち切る魔王は鎧大将軍。別名、大鎧とも言う」

魔王「全身鎧を纏った巨人かつ魔神になって巨大な剣を振り回す」

女勇者「……そんな事されたら一たまりも無いね。土地とか色々」

魔王「得てして、巨大化する連中は皆そうさ」

山の魔王「本当にさらっと問題発言をするな……お前は」


26 :
みんなの暇つぶしさん:2010/12/25(土) 11:27:40 ID:L2w7qlHk
魔王「争い事は無縁、潮風の国、波紋の魔王は文字通り竜巻を纏う水龍だ」

女勇者「普通の水龍じゃないって事だよね?」

魔王「上位種とでも思えばいい。常に竜巻を纏う事から風水龍とも呼ばれている」

魔王「ちなみに昔は天災の魔王とも呼ばれた」

女勇者「納得」

水の魔王「誤解していそうだから補足しますと、彼らの家系は代々温和な方ばかりですからね?」

魔王「王家が代々漁業を行うぐらいだからなぁ……」


27 :
みんなの暇つぶしさん:2010/12/25(土) 11:32:17 ID:L2w7qlHk
魔王「次は砂炎の国だな。枯渇の魔王は見事なまでに褐色肌だったが、あそこの国の殆どがあんな感じだ」

女勇者「おまけに眼が赤とか強そうだったね。人体破壊的に」

魔王「事実強いからな。彼はサンドワームだが……正にサンドワームなんだ」

魔王「砂が渦巻いているような姿で、あの魔王にいたっては何十メートルもあるらしい。渦の内部に砂の核があるそうだ」

女勇者「生き物……なんだよね?」

魔王「ああして人の形をして生きている以上そうなのだろうな」


28 :
みんなの暇つぶしさん:2010/12/25(土) 11:36:50 ID:L2w7qlHk
魔王「連合都市は……まあそのままだな。四速歩行で翼を持ったドラゴン。補足は要らないな」

魔王「水の魔王も這い寄る魔王も説明は要らないか……あー……」

深緑の魔王「……」ブルブル

女勇者(一番触れたくない所だなぁ)

深緑の魔王「あーくそ!あんたもあんただ!もっとソフトに書け、断ち切る魔王!!」

断ち切る魔王「そう言われてもな……これでもかなり砕いたぞ?」

魔王「それはこの単語から滲み出ているな。何せ本来の姿はカb」

深緑の魔王「やめろーーーーーーー!!」


29 :
みんなの暇つぶしさん:2010/12/26(日) 00:07:59 ID:DaIzMmyY
深緑の魔王「もうヤダ……堂々と言われるとか……お嫁にいけない……」

断ち切る魔王「国長なのだから、婿が来るだろう」

女勇者「えーと……」

魔王「まあ、本人がいる手前言い辛いがカビだな」

女勇者「さっき普通に言おうとしたよね」

魔王「但し、普通のカビではない。凄まじい生命力を持つカビであり繁殖力もあるカビなのだ」

深緑の魔王「連呼するなーーーーーーー!!」


30 :
みんなの暇つぶしさん:2010/12/26(日) 00:15:40 ID:DaIzMmyY
魔王「ちなみに、もっと扱いが酷い人がいます。誰だか分かる人手ー上ーげてー」

水の魔王 ノ
火の魔王 ノ
断ち切る魔王 ノ

魔王「そう、火の魔王がまるっとぬけ、断ち切る魔王は分かってて書いたのか!」

火の魔王「……首謀者と気づかなかった奴は拳骨だな」


31 :
みんなの暇つぶしさん:2010/12/26(日) 00:20:43 ID:DaIzMmyY
魔王「補足、火の国、火の魔王。真の姿は巨大なサラマンダー」

女勇者「サラマンダーってあんまり大きいイメージがないんだけどなぁ」

魔王「ドラゴン級だ」

女勇者「わお!」

魔王「火の魔王の本気は山をも溶かす」

女勇者「わ、お?え、ちょ、それどれだけ凄い炎を吐くんだ?!」


32 :
みんなの暇つぶしさん:2010/12/26(日) 00:24:27 ID:DaIzMmyY
女勇者「だいたい分かったけど……各魔王の力的にはどういう順序なの?」

魔王「試した事ないからなぁ」

山の魔王「しっかりと優劣をつけようものなら、この大陸が沈むだろうからな」

断ち切る魔王「だが、まあ……最強は誰かと言ったらはっきりしている」

女勇者「へえ……そこだけ周知されているんだ。ちなみにそれは?」

各魔王「……」ジーー

深緑の魔王 ノ オズオズ


33 :
みんなの暇つぶしさん:2010/12/26(日) 00:28:12 ID:DaIzMmyY
女勇者「え?ええ?皆で口裏合わせてないよね?」

魔王「さっきも言ったが冗談抜きで凄まじいんだ」

火の魔王「言ってしまえば規格外のカビだな」

水の魔王「遥か昔の記録にも世界を滅ぼしかけた、と残っているほどです」

断ち切る魔王「具体的には有機物であれば胞子は付着後、瞬時に発芽して瞬く間に広がっていく」

断ち切る魔王「無機物でも物によっては時間はかかるが発芽すると言われている」

女勇者「焼き払ったり、魔法で吹き飛ばせば……?」


34 :
みんなの暇つぶしさん:2010/12/26(日) 00:32:24 ID:DaIzMmyY
魔王「周囲から中心に向けて燃やせば何とかなるだろうが……きっと包囲するよりも早く胞子が飛散するだろうな」

山の魔王「爆風も被害拡大に手を貸すだけであろう。何せ生きている魔族だろうと枯れ木だろうとお構い無しであるからな」

深緑の魔王「……ぅぅ、こんな醜い種族に生まれたくなかった」

女勇者「それで最強……天はニ物を与えず、て本当なんだなぁ」

魔王「まあ、爆心地は手を打つ前に沈むからな」

魔王「以前、侵略派を恐れる言動をしていたが、全て魔王が怒らせたくないのは誰かといえば」

魔王「この深緑の魔王他ならない訳だ」


35 :
みんなの暇つぶしさん:2010/12/26(日) 00:37:04 ID:DaIzMmyY
女勇者「……」

深緑の魔王「あ、ああ!引かないで!距離を取らないで!」

水の魔王「そうです!そういった力があるだけであって、彼女にはそのような事をする悪意はありません!」

水の魔王「確かに……荒ぶる魔王のような悪ふざけが過ぎる時はありますが、それでも信頼できる方なのです」

火の魔王「深緑の奴、凄い微妙な顔をしているな。今のフォローじゃあなぁ」

魔王「それもあるだろうが……」

深緑の魔王(……ショックだ。あたしはあの馬鹿と同列にされる評価だったのか……マジ凹むわ)ズゥゥン

魔王(とか思っているんだろうな……)


36 :
みんなの暇つぶしさん:2010/12/26(日) 00:43:06 ID:DaIzMmyY
水の魔王「それで……荒ぶる魔王ご自身は魔王として復帰しようと考えてはいないのですか?」

魔王「あー……」

側近「そうして欲しいんですがねぇ……」

魔王「いやぁー……」

女勇者「そんなに魔王をしたくないの?」

魔王「正直に言えば、俺自身が政治していた訳じゃないから、どうしても魔王である必要はないというか」

魔王「何より、俺は後七十年とかそのくらいしか生きられないんだよな」


37 :
みんなの暇つぶしさん:2010/12/26(日) 00:46:43 ID:DaIzMmyY
側近「……はい?」

水の魔王「何十年も変わらない姿で、そのご冗談は面白くないですよ」

断ち切る魔王「全く、貴様はこんな話の時までそういう事を言うか」

側近「第一、そういう事は蘇って直ぐに言うもんですよ」

女勇者「本当にこの魔王は……」

火の魔王「ま、荒ぶる魔王らしくていいじゃないか」

「あはははははは」

魔王「はっはっ」

魔王「す、すまん……言いにくい事だったから中々切り出せなかったんだ」


38 :
みんなの暇つぶしさん:2010/12/26(日) 00:52:29 ID:DaIzMmyY
側近「はぁぁあああーーー!?」

水の魔王「ほ、本当なのですか?」

魔王「慈しむ魔王が残した記憶の話になるが、無理に転生させた俺の存在自体は周囲に悪影響を及ぼす可能性があるそうだ」

魔王「具体的な事は俺もあいつも分からないんだけどな」

断ち切る魔王「そうすると蘇ったお前は尚更危険な存在になっていると?」

魔王「あの時、正確には別の世界とか空間に幽閉されてたようなもんだ。実際に死んだわけじゃない」

魔王「で、またこっちに戻るにあたって、寿命の大部分を削る事でやばい部分を少しでも補正するんだとか」

側近「それで、後は人間と同じくらいの寿命に……」

魔王「そんな訳だから、魔王なんてやったらあっという間に爺になっちまうから御免被りたいと」


39 :
みんなの暇つぶしさん:2010/12/26(日) 00:59:04 ID:DaIzMmyY
女勇者「そ、そういう事を今更……!」

魔王「本当にすまないとは思っている」

魔王「だが、今なら本当の意味で、お前と人生を共にできるんだ」

女勇者「それはそうかもしれないけども……」

断ち切る魔王「では、お前は早々と隠居を決め込むつもりか」

魔王「復活するにあたって前世様から最低限やって欲しい事は言われている」

魔王「まあ、頼まれ事自体は大したものじゃないんだが、俺自身で手を打っておきたい事のが面倒だな」

魔王「色々と手を借りる事にはなると思うが、詳細に関しては追々連絡するさ」

火の魔王「今この場で伝えてくれた方が楽なんだがなぁ」

魔王「ちょっと調べてる途中なんだよ。そもそも具体策が思いついていないのさ」


40 :
みんなの暇つぶしさん:2010/12/26(日) 01:07:49 ID:DaIzMmyY
女勇者「で、帰ってきちゃったけど、本当に良かったの?」

魔王「本当にいいんだよ。話し合うにも材料が足りなさ過ぎる」

側近「では……これからどうするおつもりですか?」

魔王「しばらくは報告待ちだな。何をするか……家でも建てるか?」

側近「何を阿呆な事を、って例の騎士の事ですか?」

女勇者「何を企んでいるの?」

魔王「ちょっとした悪ふざけさ」


41 :
みんなの暇つぶしさん:2010/12/26(日) 01:11:41 ID:DaIzMmyY
魔王「今の所は待機一択で」

女勇者「本当にやる気がないね」

魔王「お前は相変わらず熱心だな。そもそも、何でお前が騎士になっているんだ?」

女勇者「そもそも、この国の騎士と兵士の違いがよく分かっていない」

魔王「……」

側近「……」

魔王「……俺がいないのを良い事に、中々好き勝手にやっていたようだな」ゴゴゴ

側近「返す言葉もございません」

女勇者(うわ……魔王の上司らしい姿、初めて見たかも)


42 :
みんなの暇つぶしさん:2010/12/26(日) 01:23:17 ID:DaIzMmyY
魔王「騎士と兵士の違いだが……この国において、騎士は魔王の右腕のような存在だ」

女勇者「そういえば、いつも側近さんと一緒にいたっけ。お陰で他の騎士も組織図もさっぱりなんだよね」

魔王「……そこら辺は後で追究するとして、全員が万能という訳ではなく」

魔王「討伐や護衛等を行う騎士と、政治や様々な調査を行う騎士がいる」

魔王「俺の時は……基本は俺が指示していたが、側近からも指示を出させていたな」

女勇者「調査側の騎士はうまく扱えなさそうだもんね」


43 :
みんなの暇つぶしさん:2010/12/26(日) 01:32:00 ID:DaIzMmyY
女勇者「……あれ?でも、魔王が人間側に来た時、連れて行ったのって兵士だったよね?」

魔王「俺がしばらく国を抜けるんだ。精鋭まで連れて行ってどうするんだ」

女勇者「ああ……なるほど」

魔王「人を小ばかにする割りには、お前も大概だな」

女勇者「……ぐう、言い返せないっ」

側近「ですが、誰かと違って女勇者さんは、都市鎮圧型と言えるほどの魔法も使えるんですけどもね」

魔王「魔法の才能がそのまま優秀さに直結するのは、古い考……ああ、女勇者が騎士なのは護衛も兼ねてか」

側近「……どうせ私は弱い魔族ですよ」

魔王「……」

女勇者「……」

側近「せめて右腕にはフォローして頂きたかったですね」


44 :
みんなの暇つぶしさん:2010/12/26(日) 01:38:31 ID:DaIzMmyY
魔王「なんだかんだで、魔物の王とタイマンはろうとしていたんだ。それなりの実力だとは思っていたが」

魔王「装備が前衛過ぎて、大きな魔法が使えるとまでは……女勇者専用の魔法とかか?」

女勇者「正確にはあたし自身は魔法は苦手だよ」

側近「現場を見た騎士達の報告ではとてつもない威力だった、と」

女勇者「あれは……祖父が結構有名な魔法使いで教わってて……」

魔王「覚えられた数少ない魔法が都市鎮圧型と?」

女勇者「……」

魔王「報告書を見せてくれ」

女勇者「あー……尾ひれがついていそうだからあたしが話すよ」


45 :
みんなの暇つぶしさん:2010/12/26(日) 01:44:26 ID:DaIzMmyY
……
騎士「こちらがその砦ですが……本当によろしいんでしょうか?」

女勇者「流石にただ飯食らいになるわけにはいかないからね」

騎士「そうではなくて、人間の方がこちらの魔物の討伐だなんて」

女勇者「適わなさそうなら一から鍛え直すだけさ」

騎士「……分かりました。そこまで言うのでしたら参りましょう」


46 :
みんなの暇つぶしさん:2010/12/26(日) 02:18:22 ID:DaIzMmyY
女勇者「何あの二足歩行する豚!」

騎士「あれがオークという魔物です。が、困りましたね、まさかあれだけの精鋭揃いとは」

女勇者「魔王軍側からして見てあの戦力はどういう評価?」

騎士「危険につき早急に討伐を必要とする、といったところですね」

騎士「彼らは砦から出てまで追撃してこないようですし、一旦帰国して態勢を立て直しましょう」

女勇者「……あの砦って壊れると困る?」

騎士「困りますよ。ですが、現状あれだけの戦力に篭られている方が問題です」

騎士「魔法を仕える部隊を呼んで、砦ごと落としたほうが楽でしょうね」

女勇者「……じゃあ、ちょっとあたしに任せてよ」


47 :
みんなの暇つぶしさん:2010/12/26(日) 02:25:41 ID:DaIzMmyY
女勇者「……」

騎士(雰囲気が変わった……この人が魔法を使うところは見た事がないけど)

騎士(仮にも人間達の英雄、女勇者の称号を持つ者)

騎士(これは……女勇者のみが扱える魔法か)

騎士(一体どれほどの威力があるのだろう……そもそも、どういった形の魔法だろうか)ドキドキ

女勇者「凍土!」ッカ


48 :
みんなの暇つぶしさん:2010/12/26(日) 02:42:26 ID:DaIzMmyY
女勇者「……」

騎士「……」

女勇者「やりすぎちゃった、てへ」

騎士「砦ごと周辺が氷の塊に……」

騎士「なんですか……?実は大魔道師とかですか?」

女勇者「いやー祖父が魔法使いで、父が戦士でー」

女勇者「二人ともちょっと有名人なだけだよー」

騎士「どちらにせよ、増援は必要ですね」

女勇者「ゴメンネー」

騎士「氷を砕くのと、万が一生き残りがいた場合の対処と……大掛かりだな、氷は兵士を動員させるか」

女勇者「ゴメンネー」

騎士(どうしようこの人、魔力が空っぽになった反動で頭のまで空っぽだ……)


49 :
みんなの暇つぶしさん:2010/12/26(日) 02:50:30 ID:DaIzMmyY
……
魔王「氷か……予想外だ」

女勇者「魔王の予想は?」

魔王「爆発魔法だ。くそ、一万か」

側近「なにを一人でトトカルチョしているんですか」

女勇者「ちなみに掛け金の行方は?」

魔王「中庭の畑を手入れをしてくれていた侍女達へのボーナス」

側近「人数考えると酷い額ですね」


50 :
みんなの暇つぶしさん:2010/12/26(日) 02:57:38 ID:DaIzMmyY
女勇者「あ、協議でのお勉強会で、もう一つ補足してもらってもいい?」

女勇者「魔王が討ち取ったっていう先代は、本来の姿にならなかったの?」

魔王「あれはなれないが正しいかな。魔族全てが必ず本来の姿がある訳では無いからな」

魔王「現に側近も、これが本来の姿、というと少し変だがまあそういう事だ」

女勇者「へー……ああそうか。ここって王を討った人が王になるんだっけ」

魔王「本当にびっくりな内容だよ」

側近「懐かしいですね……魔王ご就任を述べた時、魔王様は数分固まっていましたからね」

女勇者「普通捕まる覚悟だもん。そりゃあ驚くよね」


51 :
みんなの暇つぶしさん:2010/12/26(日) 03:03:50 ID:DaIzMmyY
側近「おっと……忘れておりましたが、会議の場で渡されていた物が」

魔王「俺に?手紙か……なんだこれは?」

側近「自分は内容を知りませんが、なんて書かれているのですか?」

魔王「お茶会の誘いだ。水の魔王主催で他数名の魔王が出席するようだが……何を考えているんだ?」

女勇者「……単純に談笑したいだけじゃない?」

魔王「顔を合わせたばかりだぞ?確かに会議から抜けていたが」

側近「ご自分がこの半年、死んだ扱いになっていた事を忘れてたのですか?」

側近「確かに普段半年以上会わない事はありますが、状況が違うんですよ」

女勇者「それに今までの感覚だと、あっという間に魔王はお爺ちゃんになっちゃうわけだしね」

魔王「地味に嫌な言い方をするな……」


52 :
みんなの暇つぶしさん:2010/12/26(日) 03:09:13 ID:DaIzMmyY
魔王「それならそれで会議後にすればいいものを」

側近「飽くまで個人的な付き合いで行いたいという事でしょう」

女勇者「水の魔王は公私とかきっちり分けてるイメージだよね」

魔王「全く、年齢で言えば側近よりも下なのだから、もっと子供らしくしていれば気疲れもないだろうに」

女勇者「そういえば、種族によって寿命も成長の早さも違うって話だけど、側近さんと魔王よりも下なんだ?」

側近「不本意で残念ながら」

魔王「そんな事で残念がられても困るのだが」

女勇者「……」

女勇者「……年齢と言動の落着きが逆転するなんて」


53 :
みんなの暇つぶしさん:2010/12/26(日) 03:13:49 ID:DaIzMmyY
側近「水の魔王様と比較しては彼女に失礼ですよ」

魔王「品がなくて悪かったな」

女勇者「そういう問題、でもあるか」

側近「ですがまあ、魔王様なりに年上の対応もありましたけどね」

側近「いくらしっかりしているとは言え、まだ水の魔王はお若いですから、魔王様も色々と支えになっていましたよ」

魔王「何というか一生懸命な妹みたいな感じだからな」

側近「反面教師な兄上ですこと」

女勇者「残念な家族ですこと。長男が」

魔王「お前ら……」


54 :
みんなの暇つぶしさん:2010/12/26(日) 03:20:51 ID:DaIzMmyY
側近「それでどうなさいます?」

魔王「名指しで呼ばれているんだ。行ってくるさ」

魔王「お前も来るか?」

女勇者「あたしが行っても話す事ってないような……」

魔王「話題が尽きたら今後の事でお前の意見を欲しがるだろうからな」

女勇者「いやーお茶会の場でその話にはならないと思うけどもなー」

魔王「とりあえず来ればいいさ」

側近「もっともらしい事を言って、私の仕事量を増やしたいのですね」

魔王「こいつをいい様に働かせた罰だ」


55 :
みんなの暇つぶしさん:2010/12/26(日) 03:28:08 ID:DaIzMmyY
……
断ち切る魔王「主役のお出ましだな」

魔王「俺がメインなのかよ」

水の魔王「当たり前です。貴方はどれだけ多くの心配をかけられ、悲しみを振りまいたかを自覚していなさすぎます」

深緑の魔王「まー、それが一番顕著に現れていたのはみzモゴモゴ」

水の魔王「……とにかく、荒ぶる魔王は周囲への配慮が足りていません!」

火の魔王「というか何で女勇者までいるんだ?」

魔王「女勇者に頼っていた側近を苦しめる為に」

女勇者「うわ、素で言ってるよ」


56 :
みんなの暇つぶしさん:2010/12/26(日) 03:32:46 ID:DaIzMmyY
水の魔王「……お陰でこちらは新しい体制を作るのにどれだけ苦労を」クドクド

断ち切る魔王「お前が引くタイミングを誤ってさえいなければだな」ネチネチ

魔王(変だな……お茶会なのに、何故俺は愚痴と文句で袋叩きにされているのだ)


深緑の魔王「あっちの話はどろどろしているし、こっちはこっちで別の話をしましょっか」

火の魔王「見事に荒ぶる魔王が叩かれてるし、とばっちりがこないように避難だな」

女勇者(うわー……)

深緑の魔王「あんな剣幕の水の魔王初めて見たわぁ」

火の魔王「そりゃあ身勝手な兄貴が、最大級の身勝手振りまいたんだから、怒っていてもしゃーないな」

女勇者(他国公認の間柄だったのかっ)


57 :
みんなの暇つぶしさん:2010/12/26(日) 03:38:17 ID:DaIzMmyY
女勇者「荒ぶる魔王は就任時からあのような言動だったのでしょうか?」

火の魔王「堅苦しい言葉遣いはしなくてもいいぜ」

深緑の魔王「あいつは本当にあんな感じだったね」

火の魔王「王としてあれはどうだろうかとは思うが、無責任でどうしようもない訳じゃないからな」

火の魔王「一夜で国を滅ぼした逸話は知っているか?」

女勇者「史書で知っただけで、あまり詳しくは……」


58 :
みんなの暇つぶしさん:2010/12/26(日) 03:46:53 ID:DaIzMmyY
……
女勇者「……やっぱり、あいつなりに王をしているんだなぁ」ウンウン

深緑の魔王「ま、他の魔王とはやれる事が大きく違いすぎて微妙だけどね」

火の魔王「だが……今にしてみればあいつは元々、征服派を無くした段階で魔王を辞めるつもりだったのかもな」

深緑の魔王「そんな感じがしなくもないけど、どうしてそう思った?」

火の魔王「この娘もそうだが、あいつの騎士制度ってぶっちゃけ魔王の全面サポートをする体制だろ」

女勇者「ん……?ちょっと待って、騎士とかの身分ってあの魔王が作ったものなの?!」

深緑の魔王「あいつが魔王になるまで、農相国家には兵士しかいなかったはずよ?」

女勇者(思った以上に仕事をしてるんだなぁ……)


59 :
みんなの暇つぶしさん:2010/12/26(日) 03:50:03 ID:DaIzMmyY
女勇者「そうだ、前々から疑問に思っていたんだけど、他の魔王とかって魔力で武器とか作れるの?」

炎の魔王「いや……できるのはあいつだけじゃないか?」

深緑の魔王「そんな大道芸はあたし達にしても、水の魔王や断ち切る魔王だってできやしないよ」

女勇者「……あれ?でも、荒ぶる魔王は魔法自体は使えないって話だよね」

魔王「俺しかできなくて当然だ。今となっては魔力を物質化する能力をもっている者がいないんだからな」

深緑の魔王「何でこっちにくんのよー」

魔王「客なのに延々と愚痴の受身になっていろと?」


60 :
みんなの暇つぶしさん:2010/12/27(月) 02:29:55 ID:/u3Q.xek
断ち切る魔王「愚痴をぶつけるのを免除する代わりに、その話を詳しく聞かせてもらおうか」

魔王「まあ……興味津々なのも無理はないか」

魔王「慈しむ魔王の転生は、自身の能力をそのまま残す事ができる、というと何か大げさだな」

魔王「簡単に言えば、時折耳にする、誰々の生まれ変わりだ、的なやつだ」

火の魔王「あー……何となく分かった気がする」

女勇者「でも、慈しむ魔王って魔法も凄い長けていたんじゃないの?」

魔王「飽くまで能力であって技術じゃない。スキルじゃなくてステータスを引き継いだ、と言えば分かりやすいか?」

深緑の魔王「魔力を物質化するのって、スキルの枠じゃないの?」


61 :
みんなの暇つぶしさん:2010/12/27(月) 02:38:05 ID:/u3Q.xek
魔王「俺のように、本来の姿が巨大な生き物ではない魔族は基本、能力が高かったらしくてな」

魔王「特に魔力は使わなければ、暴発を起こすくらいだったそうだ」

魔王「その折に溢れる魔力で物を作り消化させる、というのが事の始まりらしい」

水の魔王「気づいたら剣を生成していた、という事ですか?」

魔王「そんな感じだ」

断ち切る魔王「……お前は本当に、適当に生きる男だな」

魔王「本当に気付いたら、だから何と言われ様ともどうしようもないんだよなぁ」


62 :
みんなの暇つぶしさん:2010/12/27(月) 02:42:38 ID:/u3Q.xek
火の魔王「そういや、何で荒ぶる魔王の系統の魔族って滅んだんだ?」

断ち切る魔王「それについては、調べてはいるのだが、滅んだ理由も経緯もさっぱりだ」

魔王「……結構重たい話になるがいいか?」

水の魔王「荒ぶる魔王は知っているのですか?」

魔王「慈しむ魔王からだいたいの事情は聞いている」

深緑の魔王「ああ、あんたが死んだ時に会談したんだっけ……あれ、彼がいた時代はまだ滅んでいないよね?」

魔王「表舞台から消えてすぐに転生の術をかけた訳じゃない」

魔王「まあ……正確には術が完成するまでの間に、世界情勢が変わってしまっただけなんだがな」


63 :
みんなの暇つぶしさん:2010/12/27(月) 02:46:10 ID:/u3Q.xek
魔王「慈しむ魔王失脚後、本来の姿が巨大化せず人の姿を保つ魔族は危険視されるようになっていたんだ」

魔王「慈しむ魔王が規格外の強さであった事もそうだが、さっき言ったように種族単位で能力が高かったからな」

魔王「当時、巨大化する種族が魔王なのは水の国と剣の国だけで、今の魔王達の種族は幹部とかが殆どだそうだ」

断ち切る魔王「そこだけはこちらでも調べがついている。だが、肝心なのはその後だ」

魔王「何が起こったか……簡単な話だ」

魔王「巨大化する種族によって俺側の魔族は滅ぼされたんだ」


64 :
みんなの暇つぶしさん:2010/12/27(月) 02:51:55 ID:/u3Q.xek
魔王「各国、恐ろしいほどの連携だったそうだ」

魔王「結集されまいと、ただの一日で殲滅しようとしたそうだ……」

魔王「暗殺が目論まれているなどと思いもしない魔族達は」

魔王「全員、分散された後に数でもって殺されたそうだ」

魔王「中には激しく抵抗する者や、何とか生き延びた者もいるが……」

魔王「いくら能力が高いとは言え平均的に見れば、今の魔王達の水準よりも下回る」

魔王「数でもって攻められたらそう耐えられるものではない」


65 :
みんなの暇つぶしさん:2010/12/27(月) 02:55:53 ID:/u3Q.xek
水の魔王「そんな……私達の先祖はそのような罪深き事を」

魔王「力がありすぎれば淘汰されるのも仕方ないんだろうな」

魔王「ちなみに生き残った連中はレジスタンスとなったそうだ」

女勇者「その人達は?」

魔王「奮闘したそうだよ。あまりにも抵抗力があり、かなりの血が流れた時に、今まで表舞台に出なかった種族が討伐を名乗り出たんだ」

火の魔王「平均能力が魔王以下とは言え、レジスタンスを組むだけの人数がいたんだろ?」

火の魔王「ちょっとやそっとの種族が名乗り出でもどうにもならなくないか?」

魔王「ちょっとじゃないのさ……その種族こそが今の魔族最強と謳われているんだからな」

深緑の魔王「随分と後味の悪い話ね……」


66 :
みんなの暇つぶしさん:2010/12/27(月) 03:02:43 ID:/u3Q.xek
魔王「砂炎の国……あそこがレジスタンスの本拠地だ」

魔王「昔は岩山に囲まれた盆地になっている森だったそうだが……」

水の魔王「盆地を砂漠化させるほどの力……世界を滅ぼしかけた逸話として残っていますね」

魔王「ま、こうして唯一の生き残りだったレジスタンスは一夜で滅び、全滅したとされている」

断ち切る魔王「酷い話ではあるがこれなら書物に記録が無いのは納得だな」

火の魔王「ご先祖様はとんでもない十字架を背負わせてくれたもんだな」

魔王「まあ、責められない話だがな。直前の慈しむ魔王の発狂で、多くの国が疲弊していた事だろうし」

魔王「もし、このタイミングで彼らが徒党を組んで世界を牛耳ろうとすれば……眠れない夜を越してきたのだろうな」


67 :
みんなの暇つぶしさん:2010/12/27(月) 03:10:17 ID:/u3Q.xek
女勇者「魔王は……中立の立場なんだね」

断ち切る魔王「飽くまできっかけは慈しむ魔王であって、こいつ自身の意思ではないからな」

女勇者「それもあるとは思うけど、なんか話している感じが止むを得ないって雰囲気だからさ」

魔王「この一件を隠そうとしたのは間違いだろうが、滅ぼした事自体は……俺には責められない気がするからな」

火の魔王「いや、これって虐殺だろ。どう考えても、俺らの先祖に問題大有りじゃないか?」

魔王「素晴らしき王の伴侶に相応しくない、と嫉妬した権力者も分からんでもないし、伴侶を失わされた慈しむ魔王の怒りも分かる」

魔王「改めてその系統の種族の恐ろしさを理解した他の魔族達の気持ちも分かる」

魔王「ただ、全員がとった行動が間違っていた……すれ違いで悲劇を重ねていった」

魔王「あの時代に生きていた殆どの魔族に責任があったのでは、と俺は思うんだ」

魔王「特に俺の生まれ変わる前も、な」


68 :
みんなの暇つぶしさん:2010/12/27(月) 03:18:59 ID:/u3Q.xek
水の魔王「まさかそれを慈しむ魔王に……?」

魔王「あれはどう行動すべきだったのかを延々悶々悩んでいたよ」

魔王「うじうじと鬱陶しいから、もっとこう動いていればよかったじゃねーか、と唾吐きかけておいた」

女勇者「……それ、復活するのを無くされるんじゃないの?」

魔王「お前には悪いが、正直俺が今も生きられるのはあの会談のおまけだと思っていたんだ」

魔王「あいつが俺に何を求めて、この世界に生まれさせたのか」

魔王「そこはしっかりと答えてやらなくちゃいけないよな、と考えていたんだ」

断ち切る魔王「真面目なのかふざけているのか。本当のところ、お前の寿命は暴言が原因じゃないのか」

魔王「そんな事ある訳が、ない、だろ……」

深緑の魔王「気にしてるのかよ」


69 :
みんなの暇つぶしさん:2010/12/27(月) 03:24:19 ID:/u3Q.xek
魔王「いやあ、だってさ、そこまで考えてなかったから、あれ、滅茶苦茶怒ってるのか?とか思ったりしたんだ」

女勇者「後悔するくらいならもう少し言い方を考えればいいのに」

深緑の魔王「本当ばっかみたい」

魔王「悪かったな……本当に悪かったよ、すまない。それと、俺が消えた後の世界の事もすまない。丸投げになる」

女勇者「魔王……」

魔王「慈しむ魔王の事だから、この世界の行く末を見守らせるだろうとさえも思っていた」

魔王「だが、甘かった。俺でさえ、まだ受け入れきれていない」


70 :
みんなの暇つぶしさん:2010/12/27(月) 03:28:41 ID:/u3Q.xek
深緑の魔王「ばっかじゃないの。あんたはそんな湿っぽいの似合わないっつーの」

深緑の魔王「だいたい、あたし達にとっては死んだあんたとこうして話しているんだ。後何年生きられようと、こっちは儲けもんよ」

水の魔王「深緑の魔王……」

火の魔王「お前、泣いているの分かっているよな?」

深緑の魔王「分かってるよ……悔しいけど嬉しいよ、あんたが帰ってきてくれて」

深緑の魔王「だって楽しいんだもん。王である以上、軽はずみな行動はできないし、元々他の魔王とはプライベートで接するのは水の魔王くらいで」

深緑の魔王「馬鹿な事して、馬鹿な話をして、馬鹿笑いし合える相手なんていやしなかったもの」

水の魔王「ええ……知っています。だって、貴女は荒ぶる魔王と共にいる時、本当に楽しそうですもの」


71 :
みんなの暇つぶしさん:2010/12/27(月) 03:33:11 ID:/u3Q.xek
火の魔王「まあ、こいつに限らず俺らも似たような気持ちだ、て事は分かってくれよ」

火の魔王「今まで、基本的に他の魔王とは飽くまで、外交とか協議でしか顔を会わす事が無かったのに」

火の魔王「お前はそういった壁を壊していったんだからな。他国の魔王を友として向かい入れる時代が来るとは思っていなかったぞ」

女勇者「何したの?」

魔王「土足で上がって茶を飲んだり……?」

水の魔王「見回りをしていたら、城下町で買物をしている荒ぶる魔王を見かける事もありましたね」

女勇者「本当に何してんの」


72 :
みんなの暇つぶしさん:2010/12/27(月) 03:36:24 ID:/u3Q.xek
火の魔王「湿っぽくなっちまったし、何か余興でもないもんか」

断ち切る魔王「よし、荒ぶる魔王、手合わせを願おうか」

魔王「お、面白そうだな。いいぜ」

断ち切る魔王「余興だからな……決闘という事で剣のみだ」

魔王「ふっふー、これでも基本的には剣のみで戦ってきたんだ。望むところよ」

女勇者「……どっちが強いんだろう」

水の魔王「今までに無かったですからね。ただ、どちらが勝っても不思議ではないです」

深緑の魔王「断ち切る魔王に全財産」


73 :
みんなの暇つぶしさん:2010/12/27(月) 03:40:43 ID:/u3Q.xek
水の魔王「癒しの水……」パァァ

女勇者「あーあー……こんなボロボロになっちゃって」

魔王「くそ……駄目だ。この差はちょっとやそっとじゃ覆らん!」

断ち切る魔王「こちらとしても、代々云百年をかけて磨き続けている剣術だからな」

断ち切る魔王「自力で上り詰めたとは言え、実質数十年の歴史に負ける訳にはいかん」

火の魔王「おー……こりゃ、剣での戦闘だと断ち切る魔王最強か」

水の魔王「やはり火の魔王でも無理ですか」

火の魔王「正直、俺は荒ぶる魔王にだって勝てねーよ」

深緑の魔王「可能性があるとしたら砂炎の国の枯渇の魔王ぐらいね」


74 :
みんなの暇つぶしさん:2010/12/27(月) 03:42:55 ID:/u3Q.xek
火の魔王「いい感じに荒ぶる魔王の鼻も明かされた事だし、ここらへんでお開きにするか」

魔王「酷い締め方だ。って余興じゃなかったのかよ!」

断ち切るの魔王「俺は胸の支えが取れたから構わんぞ」

深緑の魔王「あったしもー。やっぱりさ、荒ぶる魔王なんか、万能じゃつまらないよね。定期的にボコられろよ」

魔王「この二人は……水の魔王はそんな事は思っていないよな?」

水の魔王「え、ええ……」

女勇者「……まさかの発言ね」

魔王「……」ズゥゥン

水の魔王「あ、いえ、そういう意味ではなくて!何と言えばいいのでしょう!」

水の魔王「色々な事をこなせてしまう辺り、やはり自分達とは違う存在ではないだろうかという思いがあったのですが!」

水の魔王「そんな事は無かったと安心しているのです!」

深緑の魔王「本当に真面目ねーあんた」ナデナデ


75 :
みんなの暇つぶしさん:2010/12/28(火) 00:06:31 ID:ShnTWv9I
水の魔王「もし、お時間があるようでしたら、夕食を一緒になさらないでしょうか?」

深緑の魔王「珍しく積極的ねぇ。どうしたの?」

水の魔王「……もう、このように集まる機会があるか定かではないので」

火の魔王「あー……先に言っておいて貰えたら付き合えたんだが、すまんな。戻らなくちゃいけねーんだ」

断ち切る魔王「こちらも外せない予定があってな。流石に夕食までは付き合えんな」

水の魔王「そうですか……」

深緑の魔王「あたしは問題なーし」

女勇者「あれ、側近さんには今日……」

魔王「俺らは問題ないぞ」

女勇者「?!」


76 :
みんなの暇つぶしさん:2010/12/28(火) 00:13:10 ID:ShnTWv9I
水の魔王「それでは荒ぶる魔王に倣いまして、今後の南の大陸との調和の成功を願いまして、乾杯!」

「「「乾杯!」」」


魔王「これは……中々っ」

女勇者「流石水の都市。んー!魚料理美味しいー!」

深緑の魔王「結構豪勢ね。わざわざ今日の為に?」

水の魔王「本当なら火の魔王や断ち切る魔王にも、召し上がって頂きたかったのですが……」

魔王「まあ、仕方が無いだろう。で、早速に本題に入ろうか」

女勇者「……え?」

水の魔王「そうですね……では荒ぶる魔王の考えをお願いします」

深緑の魔王「もしかして協議で言っていた事?」


77 :
みんなの暇つぶしさん:2010/12/28(火) 00:16:47 ID:ShnTWv9I
魔王「まだ調べてる途中で報告も受けていないから、何ともかんとも」

水の魔王「その企みの全貌は?」

魔王「……魔物の王を打ち消す方法だ」

女勇者「うん?どういう事?」

深緑の魔王「ああ、何度も蘇るのを止めるって事か」

魔王「それが可能かどうかすらまだ分からないけどな」

魔王「何かしら仕掛けがあると俺は睨んでいるんだ。そいつさえ何とかできれば、と思っている」

女勇者「んー、魔物の王だからって可能性は?」

水の魔王「無い事も無いでしょうが、恐らくそれよりも仕掛けがある可能性の方が高いのでしょう」

魔王「まだこいつも憶測だが……恐らく慈しむ魔王は、魔物の王の転生を参考にしたんだろう」


78 :
みんなの暇つぶしさん:2010/12/28(火) 00:21:57 ID:ShnTWv9I
女勇者「ここまで転生って言葉が定着する事になろうとは……」

深緑の魔王「ま、それでも大掛かりなものなんでしょ?」

魔王「慈しむ魔王ですら何十冊と魔方陣を本に描いて、模索していたようだからな」

魔王「いくら天才でも一人では限界があるだろうし」

魔王「だからこそ、この世界でもう一つの転生を行っている者、魔物の王に着目しているんだ」

深緑の魔王「どっかの誰かがぶっ殺したから、当分事情聴取もできないんだけどねー」

魔王「……」

水の魔王「ま、まあ、あの時はこうなるとは誰も想像できるわけが無かった事ですし」


79 :
みんなの暇つぶしさん:2010/12/28(火) 00:24:35 ID:ShnTWv9I
女勇者「それで具体的な行動は?」

魔王「騎士を一人、南の大陸に派遣した」

水の魔王「え、お一人ですか?」

深緑の魔王「ひでー奴」

魔王「え、逆に俺が驚くんだが。向こうもこちらも、多少の文化の違いはあるが、そこまで大きく違いはないぞ」

深緑の魔王「いや……いきなり一人で南の大陸に送られても、地理とかの不便さとかいろいろあるんじゃない?」

魔王「……案外さくさく進めたような」

女勇者「それ、あたしと話しながら進んだからじゃない?」

魔王「……あっ!」

深緑の魔王「荒ぶる魔王の名を捨てて、鬼畜な外道を名乗っちまえよ」

水の魔王「……それは魔王ですら」

女勇者「いえ、現魔王じゃないですからね、これ」


80 :
みんなの暇つぶしさん:2010/12/28(火) 00:27:24 ID:ShnTWv9I
魔王「……まあ、後は死の島の魔方陣と残された書物の解読して、検討していくしかないだろうな」

魔王「恐らく、深緑の魔王の力が必要不可欠になっていくだろうなぁ」

深緑の魔王「そりゃまあ、あたしの種族は結構な人数だからいくらでも手伝えるけども?」

魔王「いや……俺の予想が当たっていれば、お前一人で十分なはずだ」

水の魔王「具体的に検討がつくのは何時頃になるのでしょうか?」

魔王「報告待ちだからなぁ……今どの辺りにまで行ったんだろうか」

深緑の魔王「進捗すらノータッチかよ」


81 :
みんなの暇つぶしさん:2010/12/28(火) 00:40:05 ID:ShnTWv9I
魔王「まあ、そんな訳で今はのんびりとしている訳だ」

水の魔王「では、分かり次第ご連絡を下さい。こちらも協力は惜しみませんよ」

深緑の魔王「ま、流石にあたしだって協力するよ」

女勇者「でも、報告がきてもまだ終わりじゃないんでしょ?」

魔王「死の島の書物の解読。魔方陣のメカニズム解明、魔方陣そのものの作成、機能停止の方法の模索……」

水の魔王「……凄い大変そうですね」

深緑の魔王「聞いているだけで頭が痛いわねぇ」

魔王「いざ始まったら、本当に頭が痛いだろうな」


82 :
みんなの暇つぶしさん:2010/12/28(火) 01:13:52 ID:ShnTWv9I
……
女勇者「それにしても……さっきの話、本当に可能なの?」

魔王「調べる事なら問題ない。というより長丁場覚悟で挑めば、ある程度は掴む事はできるだろう」

魔王「ただまあ……何にせよ、まだできる事はないからなぁ」

魔王「しばらくまったりまったり……」

女勇者「のんびりしている間に老けないでよねー」

魔王「……老いがこんなにも身近になるというのも新鮮だな」

女勇者「えー……嬉しいの?」

魔王「まさか。それを噛み締めながら、一手一手を無駄にしないよう延々と考えているのさ」

女勇者「では次なる一手は?」

魔王「城に戻りもう一度、今ある情報から何をすべきかを探し出すとするか……」


83 :
みんなの暇つぶしさん:2010/12/28(火) 01:18:52 ID:ShnTWv9I
……
側近「おおぉぉぉ……魔王様ー!お知恵をお貸し下さいー!」

魔王「お前が俺に助言を……?何があった!」

側近「鍛冶職人の頭である親方が亡くなりました」

魔王「なん……だと」

側近「現存の鍛冶職人は若手が多く、親方の看板を背負うわけにはいかないと、転職や他国に修行に出る者続出」

女勇者「職人としての志が高い分、障害になっちゃったね」

魔王「ちょっと待て、かなり深刻だぞ」

側近「それに連動して、採掘師もいなくなりました」

女勇者「んー……採掘、鍛冶のラインが消滅に近い状態?」

魔王「どう考えても消滅したんだよ!」


84 :
みんなの暇つぶしさん:2010/12/28(火) 01:28:10 ID:ShnTWv9I
魔王「何て事だ……いや、確かに難病を患わせてるのは知っていたが……惜しい方を亡くした」

側近「手厚く弔いたいのですが、現状がぁ……」

女勇者「この国の鍛冶職人に直接会った事ないんだけど、人数自体少ないの?」

魔王「間違いなく少ないな。国内の武具などの生産、修理のラインがそこしかなかったからな」

側近「どうしたらいいのでしょうか……?」

魔王「これは……うーむ、簡単には思いつかないな。すまんがしばらく他国を回ってくるぞ」

女勇者「こんな時に?」

魔王「だからこそだ。他国のやり方を柔軟に受け止め、いいとこどりをする。これが一番手っ取り早い」


85 :
みんなの暇つぶしさん:2010/12/28(火) 01:36:37 ID:ShnTWv9I
連合都市
町人A「最近、ついに採掘範囲がコボルト達の縄張りに食い込んだらしいぜ」

町人B「おいおい……それ結構不味くないか?」

町人A「束ねる魔王様はどうにかできないものか、と悩んでらっしゃるようだぜ」

町人B「ああ……だから、コボルトとの共存について考えを求める張り紙がしてあるのか」

町人A「うまくいけば報奨金がたんまりだそうだ」

魔王(連合都市は大変だな……元は違う国の者同士でいざこざがある中)

魔王(コボルト達との衝突があるのか……)

魔王(……っと、他人の心配をしている場合じゃないな)

魔王(今後の事も鍛冶師の事も何も片付い、て……)


86 :
みんなの暇つぶしさん:2010/12/28(火) 01:42:29 ID:ShnTWv9I
側近「うぅぅ、仕事が片付かない……」

女勇者「め、珍しく弱気ですね」

側近「まだ鍛冶周りが何も手がついていないのですよ?」

側近「いっそ鉱山を他国に売却して、武具は輸入に……駄目だ、修理が追いつかないし、消耗品なんだぞ……」ブツブツ

女勇者「と、ところでこちらの経費、いかが致しましょうか?」

側近「え、ああ……え、何だこれ?結構な額なのに、詳細がないぞ」

女勇者「今朝、木工職人の方から出されまして……」

側近「……あの人ですかね」

女勇者「噛んでいない訳がないかと」


87 :
みんなの暇つぶしさん:2010/12/28(火) 01:45:58 ID:ShnTWv9I
女勇者「……城壁の外に城壁と高見台が」

側近「なんです、この施設は。一体何の目的で……この数日で」

女勇者「あ、魔王」

側近「殺、あ、その前に胃薬を……」

女勇者「えーと、このファモチジンって薬ですよね……?一度受診なさった方が……」

側近「時間が取れればいきますよ……取れれば」

女勇者(ここ数日、悲壮感しかないなぁ……)


88 :
みんなの暇つぶしさん:2010/12/28(火) 01:49:00 ID:ShnTWv9I
魔王「調子はどうだい?」

コボルト「おー旦那だー!持て成しの準備をするぞー!」

魔王「様子を見に来ただけだから気にするな。それよりも自分達の事を優先してくれ。長はどちらに」

コボルト長「ヘヘ、こちらにいますぜ。調子はこの通り、旦那のお陰でうまく運んでいますぜ」

魔王「それは良かった……が、流石に宿舎がまだ足りないか」

コボルト長「元々家らしい家がないですからねぇ。そう気になさんな」

コボルト長「ああ、そうだ。採掘ペースはどういたしやす?鉱石は有限ですから、慎重に進めなけりゃならねぇ」

魔王「任せろ、莫大な資金はかかったが下準備はできている」

コボルト長「……ありがたいお言葉ですが、大丈夫なんでしょうな?この国」


89 :
みんなの暇つぶしさん:2010/12/28(火) 01:52:31 ID:ShnTWv9I
魔王「この鉱山は鉱石の精霊がよく現れるんだ」

コボルト長「へぇ……耳にした事はありやすが、本物は見た事がねえですな」

魔王「質のいい鉱石が眠る鉱山に自然に湧くそうだが……こいつらをメインに採掘して欲しい」

コボルト長「なるほど、と言いてえですが、精霊達だけでは限界ってもんがありやすぜ」

魔王「状況に応じて任せるよ。俺なんかよりよっぽど経験と知識があるだろう」

コボルト長「ヘヘ、勿体無いお言葉」

魔王「それと最下部にいるゴーレム……何代も前から王が暴君だった所為だな」

コボルト長「大方、人造兵士でも作りたかったんでしょうな。ところがどっこい、この鉱山は質がいい。その影響で無限増殖しちまっているようですな」

魔王「ああ、それを無理に押し込めているのが現状だ。今日、手の空いている魔法師を全員派遣させた」

魔王「最下部への入り口に魔法をかけて、ゴーレムが出てこないようにする」

魔王「が、こちらは出入り自由だ。必要であれば彼らを撃破してくれ。多少の鉱物は採集できるだろう」

コボルト長「そいつぁ面白い!南の大陸で言うダンジョンって奴にしちまうんですかい!」

魔王「よく知っているな」


90 :
みんなの暇つぶしさん:2010/12/28(火) 01:56:14 ID:ShnTWv9I
コボルト長「これでも大地と石の声を聞けますからね。遠くの地の見聞を広めていますぜ」

魔王「南の大陸の声が聞こえるのか……凄いな」

コボルト長「いやいや。旦那、風の力を甘く見ちゃぁいけねえ」

コボルト長「風が舞えば小石が跳ね、微かな衝撃で身が削れ、その破片が空を舞って遥かこちらの大陸に運ばれるもんですぜ」

コボルト長「でなけりゃ、俺らみてぇのが南の大陸の事を知る由がないってもんさ」

魔王「凄いな……だとすれば、この世界の陸地ある場所の事を知っているというのか」

コボルト長「何でも、という訳ではございませんがねぇ」


91 :
みんなの暇つぶしさん:2010/12/28(火) 01:58:49 ID:ShnTWv9I
女勇者「すっごい……コボルトって種族だよね」

魔王「喜べ、採掘と鍛冶の方は問題は無くなったに近いぞ」

魔王「そうだ、親方。人間が弟子入りに来たら突っぱねるか?」

コボルト長「何とも言えませんなぁ……やる気や情熱があるってんなら話が違ってきますがねぇ」

魔王「この国は元々、老鍛職人一人と若手達で鍛冶を行っていたが、先日老鍛冶師が他界してしまってな……」

魔王「自分達如きお師匠様の看板を背負う訳にはいかない、と言って、修行の旅に出たり転職さえもしてしまうような職人達なんだよ」

コボルト長「ほー……それはまた……その心意気、職人の鏡じゃぁないですか。彼らが復帰したいってぇ事でしたら、あっしらで協力できる事は何でもいたしやすぜ」

魔王「そう言ってもらえると本当に助かるよ。側近、告知だけでもしておいてくれ。彼らとて、この地で鉄を叩く事を望んでいるだろうからな」


92 :
みんなの暇つぶしさん:2010/12/28(火) 02:01:50 ID:ShnTWv9I
側近「……事前に説明くらいして頂きたいのですが」

魔王「悪かったな。連合都市が彼らと衝突しかけていたから、交渉してしまったんだ」

女勇者「やっぱり魔王が王様した方がいいんじゃない?」

魔王「それは堅苦しくて嫌なのだが……」

側近「一体何時堅苦しかったというのですか?というか魔王でもない人が使っていい額ではないのですが?」

魔王「元国王としての、独断と偏見による判断で必要としたのだ」

女勇者「というか、普通に先代魔王として行動すればいいのに……」

魔王「それはそれとて、しばらくは鉱山に篭ってくるからな」

側近「採掘現場の指揮はコボルト長に任せたのでは?」

魔王「いや、奥のゴーレムの強さを確認しに」

女勇者(殲滅作戦の間違いじゃ……)


93 :
みんなの暇つぶしさん:2010/12/28(火) 02:04:56 ID:ShnTWv9I
「奥地には岩等の非金属から銅や鉄等の金属ゴーレムが徘徊しているのを確認」
「更に場所によっては特殊なゴーレムもいるようで、既にダンジョンと化していると言って問題ないだろう……」
「これから数時間は金属のゴーレムを調べる事とする」

「不味い事になった。扉があったから中に入ってみると、特殊なゴーレムが待ち構えていた」
「恐ろしく強い。騎士の軍勢でも死者が出るであろう強さだ」
「力任せに戦って、鉱山を駄目にする訳にはいかない。牽制しつつ部屋を逃げ出したのはいいが……」
「完全に道に迷ってしまった……俺は生きてここから脱出できるのだろうか?」

「自分がどの辺りにいるのか分からない。特殊なゴーレムを撒く事に成功はしたが……行き止まりに辿り着いた」
「が、その一画に何やら光る場所がある……。鬼が出るか蛇が出るか……まだ帰還ルートの探索を続ける事とする」

「光の中に入るな 強大なゴーレム 強い 怖い 死ぬ」

側近「手記……ですか」

コボルト「へ、へい……瀕死の魔王様のお近くにありやした」

女勇者「これでしばらくは静かだけど、鉱山ダンジョンへは立ち入り禁止にした方が良さそうですね」

側近「力を抑えていたとは言え、魔王様を返り討ちにするような魔物の巣窟に、誰も入りたがりはしないでしょう」


94 :
みんなの暇つぶしさん:2010/12/28(火) 02:07:45 ID:ShnTWv9I
女勇者「はい、桃」

魔王「何これ、デジャヴ?」

女勇者「光の先にいたゴーレムはどんなだった?」

魔王「あー……巨大な部屋に飛ばされてな。銀や金、他にもミスリルのゴーレムと、巨大なゴーレムがいたぞ」

魔王「しかもこの巨大なゴーレムがな……一時的に相手を動けなくする恐ろしい魔法を持っているんだ」

側近「それでほうぼうの体で逃げ帰ったと?」

魔王「何とか部屋から抜け出して……想像を絶する消耗でなぁ」

魔王「これ以上、留まっていたら本当に殺されると判断し、ありったけの魔力で盾を作り」

魔王「それを構えて全力で逃げ出したのだ」

女勇者「あれ、でも瀕死で倒れている所を発見されたんじゃ?」


95 :
みんなの暇つぶしさん:2010/12/28(火) 02:10:33 ID:ShnTWv9I
魔王「……」

側近「……?」

魔王「ゴーレムの腰を据えた正拳突きを貰ってな……意識が飛びかけた所を袋叩きにされて……」

女勇者「うわあ……」

側近「そ、それは……」

魔王「思い出すだけでも恐ろしい……というかあの時、本気で成す術が無かった……逃げきれなければやられていただろう」

魔王「単身で潜入するのなら、まずは浅い層を踏破してからにすると心に誓ったよ……」

女勇者「魔王がここまで反省する様は今までにないかも……」

側近「かもじゃないんですよ……恐ろしい、そんなゴーレムが近くにいたなんて」


96 :
みんなの暇つぶしさん:2010/12/29(水) 02:40:18 ID:72k2oQAM
……
騎士「ここが南の……姿を人間に変えて、と」

騎士「情報収集をして……根城に向かい……一人でやるには時間がかかるな」

騎士「いや、やるしかないんだ」

騎士「……」

騎士「もう少し投資してくれれば、現地で人を雇えるのに」

騎士「くそ……安請け合いし過ぎたか」


97 :
みんなの暇つぶしさん:2010/12/29(水) 02:53:33 ID:72k2oQAM
騎士(考えてみれば、女勇者さんの出身地で調べれば良かったのか)

騎士(今からあの国は……む、真逆に進んでいたのか)

騎士(何処も紛争地区の所為で山を進むしかないと言うのに)

騎士(ここから戻るのは面倒だが……おや?)

子供「だ、誰か!助けて!」

騎士(こんな所に子供?何に追われ、山賊か!)

騎士(あんな子供にまで追剥とは……間に合え!)バッ

山賊「ギャアアアアアアア!!」

騎士(何だ?誰かいるのか?)


98 :
みんなの暇つぶしさん:2010/12/29(水) 02:59:02 ID:72k2oQAM
山賊「ぐああ、ちくしょう、ちくしょー……」ガサガサ

少年「……」

山賊「ま、待ってく、ひぃぃ……っが、ヒューー……ヒューー……」

騎士(喉に一撃か……こんな子供が躊躇もなくやれるとは、南の大陸は本当に荒れているな)

少年「怪我はない?」

子供「っ!」ビク ダッ

少年「……無理もないか」

騎士(あれ、あの短剣見覚えがあるぞ?)


99 :
みんなの暇つぶしさん:2010/12/29(水) 03:09:11 ID:72k2oQAM
騎士「見事な手捌きだね」ガサガサ

少年「っ!……山賊、じゃない?」

騎士「うん、君に敵意がある人間じゃないよ。ただ、悪いんだけどその短剣を見せてもらっていいかい?」

少年「……どうぞ」

騎士「ふむ……これは、誰かからの貰い物?」

少年「え……はい。え、と、受け取っては駄目だったのでしょうか?」

騎士「ん?いやいや、君には別に非はないよ」

騎士「ただ、私が散々ねだっても譲ってくれなかったのにな、と思ってね」


100 :
みんなの暇つぶしさん:2010/12/29(水) 03:12:28 ID:72k2oQAM
騎士「これも何かの縁だ。私からも君に……そうだな、この短剣を上げよう」

少年「……ありがとう、ございます」

騎士「武器ばかり渡す変な連中だと思っただろうか?」

少年「え……あ、はい」

騎士「……正直なのは良い事だが、空気を読んで相手を立てる事も覚えるといい」

少年「ご、ごめんなさい」


101 :
みんなの暇つぶしさん:2010/12/29(水) 03:20:35 ID:72k2oQAM
騎士「ふ、ぅ……んんー」

騎士「ふう……だいたいの情報はこんな所か」

騎士(この身で聞き込みはおろか、国の書物庫で歴史を漁る日々になろうとは)

騎士「それにしても……彼女はあえて山脈じゃなく海を目指したのか。やはり器が違うな」

騎士「あの山脈だよ、な。確かに一人で行くのは気が滅入るが、大海原へ飛び出すよりかはいいと思うが」

騎士「今日のところは一杯ひっかけて寝るか……そうだな、ここからが山場だものな」

騎士「よし、費用も余裕があるし、今日くらい贅沢しよう」


102 :
みんなの暇つぶしさん:2010/12/29(水) 03:24:18 ID:72k2oQAM
ガヤガヤ
騎士(柄の悪い連中ばかりだな)

騎士「マスター、そこのリキュールを一杯」

マスター「見ない顔だね……こんなご時世に旅かい?」コト

騎士「ええ、そんなところです。……んん、この味が堪らないんだよな」

マスター「一人旅は気をつけたほうがいいですよ。各国の戦争と、新たな魔王の侵略で街は混乱」

マスター「おまけに戦火の被害を受けた人々や、重税に耐え切れなくなった人々の暴動で治安も最悪」

マスター「うちはこうして山賊盗賊上がりの傭兵連中が集まって繁盛してはいるがね」

騎士「ご忠告ありがとう。でも、これで腕はたつのでご安心を」

マスター「……何処に行かれるかは知りませんが、あそこの二人を雇ってみては?」


103 :
みんなの暇つぶしさん:2010/12/29(水) 03:27:20 ID:72k2oQAM
騎士「戦士と僧侶……?今の時代、戦争に参加しない限り生活が苦しそうですね」

マスター「だけどあの二人は戦争に加わらないからね、安給料でも護衛してもらえると思うよ」

マスター「何せ、元は女勇者様のパーティーだからねぇ」

騎士「へぇ……そういえば女勇者様の話題を久しく聞かないのですが、何かご存知ないでしょうか?」

マスター「噂話程度なら……戦争の中で命を落としただの、新魔王に暗殺されただの、そんなところですかね」

騎士(やはりまだそんな段階か)


104 :
みんなの暇つぶしさん:2010/12/29(水) 03:33:17 ID:72k2oQAM
騎士「マスターご馳走様。後、色々と話してくれてありがとう」

マスター「それで、あの二人は雇ってみるかい?」

マスター「その気があるなら紹介するが、どうする?」

騎士「そんな良くしてもらえると嵌められているんじゃないか不安になるな」

マスター「なに、久々に『一般のお客さん』を相手にできたお礼と老婆心さ」

マスター「腕が立つとは言え、何時紛争に巻き込まれるかも分からないんだ。女性の一人旅はお勧めできんよ」

騎士「……ありがとう。それならばそのご厚意、無為にはできないな」

マスター「はは、それじゃ、話をしてくるから少し待ってておくれ」


105 :
みんなの暇つぶしさん:2010/12/29(水) 03:37:30 ID:72k2oQAM
戦士「随分と若いな……本当に一人で旅をしているのか?」

僧侶「戦士さん、そんな言い方は!」

戦士「……すまない、ここしばらく人間不信気味なんだ。気を悪くさせたのなら謝る」

騎士「構わないよ。ここに来るまでに色んな人を見たからね。君の気持ちが分からない訳でもない」

戦士「感謝する。それで、こんな時に何処へ行きたいと言うんだ?」

騎士「まあ、紛争地を跨ぐ訳じゃないからそこまで危険じゃないんだが……」


騎士「二年前に滅んだ魔王の城へ」


106 :
みんなの暇つぶしさん:2010/12/29(水) 03:42:14 ID:72k2oQAM
戦士「あの騎士、本当に人間なんだろうな?」

僧侶「それは失礼が過ぎますよ!」

戦士「だが考えても見ろ、新しい魔王が現れた今になって、魔王の城に行きたいなどという奴がいるだろうか?」

僧侶「それは……ならばその真偽、直接私がっ」

戦士「いざとなったらお前ではどうしようもないだろう。それに俺でも勝てるか分からない。疑わしいが、まだ様子見だ」


騎士(いくらなんでも、露骨に魔王城へ行きたがる相手を信用はしないだろう)

騎士(何らかの鎌をかけるか、直接殴りこんでくるか。いきなり切り込まれたら嫌だな……負けないだろうけど)

騎士(あの様子から手綱を握るのは僧侶さんか。彼女の活躍に期待だな)


107 :
みんなの暇つぶしさん:2010/12/29(水) 03:46:27 ID:72k2oQAM
戦士「それでは行こうか」

騎士「よろしく頼むよ。あ、先陣もね」

戦士「……なに?」

騎士「いや、別になんて事は無いんだが、詳しい道は知らないんだ。……もしかして、君達も知らなかったりするのかい?」

戦士「当たり前だ。そもそも、あんな所に行った奴はほんの一部の物好きくらいだろう」

騎士「元は女勇者のPTであった、と聞いたからそれぐらいは知っているのかと思ってたんだが、これは以外と面倒な道のりになるな」

騎士「……気長に行くとしようか」


108 :
みんなの暇つぶしさん:2010/12/29(水) 03:51:17 ID:72k2oQAM
僧侶「騎士さんはどうして魔王城に?」

騎士「ちょっと偉い人に頼まれてね。あの近辺の地質の調査を頼まれたんだよ」

戦士「学者でもないのに調査ができるのか?」

騎士「正確にはただの試料集めだよ。本来なら私が護衛して学者を連れてくるのが一番なんだけど、世間の状況がね」

僧侶「そうだとしてもそんな事を任されるという事は……文武両道な方なんですね」

騎士「そんな事ないよ。斬った倒したしかできないつまらない大人さ」

戦士「……」


109 :
みんなの暇つぶしさん:2010/12/29(水) 03:54:42 ID:72k2oQAM
野営
戦士「やはり、あいつは怪しいな」

僧侶「まだそのような事を……」

戦士「敵か味方かも曖昧だ。明日確かめてやる」

僧侶「暴力はいけませんからね」

戦士「それは相手の出方次第だ……お前は何時でも逃げられる準備をしておけ」

僧侶「……」


騎士(まさか道の途中で痕跡が見つかるとは運がいい)

騎士(この辺りのサンプルと他四箇所、後は城内部でいくつか採取しておけばいいだろう)

騎士(私なら別の道を行っていただろう……あの戦士、中々いい勘をもっているじゃないか)


110 :
みんなの暇つぶしさん:2010/12/29(水) 03:58:42 ID:72k2oQAM
騎士「ふあ……早いな、出発の準備くらい朝食の後でもいいだろうに」

戦士「そうも言っていられないからな」

戦士「お前は何者だ。魔王の手先か?それとも本当に人間なのか?」

騎士「……食べながら答えてもいいかい?昨晩、この辺りのサンプルを採取していたんで、腹の音が止まらないんだ」

僧侶「本当に……?あ、確かに土がいくつも入っていますね」

騎士「さて、質問の前に予め言っておくと、不意打ちならまだしも、正面切ってでの戦闘ならば、君に勝ち目はない」

戦士「……っ」

騎士「だから答えている途中に切りかかるのは無しだ。勝てる相手でも食事を邪魔されれば腹も立つ」


111 :
みんなの暇つぶしさん:2010/12/29(水) 04:04:58 ID:72k2oQAM
騎士「で、質問に答えると私は魔王の手先だ。一応魔王の右腕とされる部隊の一人だ」

騎士「ああ、そう熱い眼差しを送らないでくれ。照れるじゃないか」

戦士「誰がっ!」

騎士「ちなみに君達の考える魔王と、私の言う魔王は違う。更に言えば、君達に敵意がある訳じゃない」

僧侶「どういう事ですか?」

騎士「ここから先はまだ答えられない。が、君達にはこれを聞く権利はある」

騎士「と同時に口外する権利は無い。もし、漏れようものなら、君らと君らに接したであろう人全てを殺さなくてはならなくなる」

騎士「そんな事を私にさせないと誓ってくれるなら、調査の後に詳しい話を聞かせるよ」


112 :
みんなの暇つぶしさん:2010/12/29(水) 04:09:13 ID:72k2oQAM
戦士「……もう一つだけ聞かせてもらう。今魔王城に魔王はいないんだな?」

騎士「いないから行くのさ。いたら困る。まあ、私でも倒せる程度の相手だと聞き及んでいるけど」

僧侶「お一人でですか?」

騎士「仮にも魔王様の矛、その程度できなくてどうする」

戦士「魔王の手下なのに魔王を……どういう事だ?」

騎士「深くは気にしないでくれ。まあ、何にせよそう殺気立たないでもらいたい」

騎士「無益な殺生が嫌で戦争に身を投じなかったのだろう?」


113 :
みんなの暇つぶしさん:2010/12/29(水) 15:02:36 ID:72k2oQAM
戦士「……なんだ、あれは」

僧侶「山がえぐれてますね……」

騎士(おわーーー!)

戦士「魔王との戦いはここまで熾烈を極めるものなのか……?」

僧侶「女勇者さんは……一体どうやって倒したのでしょうか?」

騎士(どう見てもあの人がやらかしてるじゃないですかーー!)

戦士「城壁までもか……城も一部崩れているな」

僧侶「内部から魔法か何かを使ったという事でしょうか?」

騎士(崖崩れで周囲が、ってどんな言い訳ですか魔王様ーーーー!)

戦士「……さっきから騎士が、無言で何かを叫ぶような動きをしているのだが」

僧侶「き、気づかない振りをするのが一番だと思います」


114 :
みんなの暇つぶしさん:2010/12/29(水) 15:13:35 ID:72k2oQAM
騎士「数日の間はここを拠点にしよう」

僧侶「仮眠室みたいな部屋もありますが……流石にこれだけ汚れていますと」

戦士「テントを張りっぱなしで済むのは有難いがな」

騎士「今日明日は城内部を調査するから自由行動で。以降はえぐれている山で二箇所」

騎士「もう二箇所別の山でサンプルを取って終わりにしよう」

戦士「……城内で何を調べるつもりだ?」

騎士「ちょっとした魔法とかの痕跡を探しておきたいのさ。手がかりがあればいいんだけどな」

騎士「という訳で、一時解散。監視したければしても構わないが、端から見ていると地味な作業だぞ?」


115 :
みんなの暇つぶしさん:2010/12/29(水) 15:22:41 ID:72k2oQAM
騎士「この部屋の感じ……ここが魔王の玉座だろうね」

戦士「……」

僧侶「……」

戦士「この部屋の壁から穴が山の方まで続いて……」

僧侶「ここから、ですか……ここからどんな魔法が……?」

騎士(最悪だ、あの人最低だ。どれだけ地雷を置いていく気だ)


116 :
みんなの暇つぶしさん:2010/12/29(水) 15:27:26 ID:72k2oQAM
戦士「……妙だな。この部屋、確かに風穴は空いているが、他は大して傷ついていないぞ」

僧侶「床の絨毯も戦闘後とは思えませんね」

騎士「……」

騎士「本当は……調査後に同意をもらった上で話さなくちゃいけない内容だが」

騎士「色々とややこしくなるから少しだけサービスしておくと、この城の魔王を倒したのは女勇者じゃない」

戦士「俺の知る限り、女勇者より強い奴なんてそうはいないぞ」

騎士「……くそ、うまい言い訳が思いつかない」

騎士「あの山まで続く爪跡は、私が仕える魔王様の一撃でできたものだ」

戦士「……」

僧侶「……」

戦士「終わった……世界は闇に包まれるのだ……」

僧侶「女勇者さん……本当に魔王の手によって……」

騎士「ああ、くそ、言ったら余計にややこしくなった!」


117 :
みんなの暇つぶしさん:2010/12/29(水) 15:37:20 ID:72k2oQAM
戦士僧侶「……」ブツブツ

騎士「……あれはしばらくは放っておくか」

騎士「普通に考えればこのあたりが中心地なはずだ」ゴソゴソ

騎士「……」

騎士(反応は陽性か……まさか、本当に魔力が残留しているなんて事があるとは)

騎士(これくらいなら、壁とか魔石の代わりに……あ、砕けた)

戦士「騎士が……壁を砕いた……」

僧侶「私達もここで……女勇者さん、今逝きますからね……」

騎士「君らはいい加減現実に戻ってこい」


118 :
みんなの暇つぶしさん:2010/12/29(水) 15:45:40 ID:72k2oQAM
騎士「ここなら落ち着いて用意もできるし、今日は私が食事を作ろうか」

戦士「……え、できるのか?」

僧侶「そんな疑いの眼差しを向けては失礼ですよ」

騎士「その台詞、しっかりと私の目を見てから言って欲しいものだが」

僧侶「ご、ごめんなさい……」

騎士「まあ……ちゃんとした家庭料理はできないのは確かだが鍋等は得意だぞ。下っ端の頃はよく炊き出しをさせられていたからな」

戦士(荷物から鍋が……なんだこの女)

僧侶(成る程……あれで防具も兼ねて)


119 :
みんなの暇つぶしさん:2010/12/29(水) 15:48:22 ID:72k2oQAM
戦士「す、凄い。いや、凄まじいというべきなのか?」

僧侶「美味しいです、こんなに美味しいお鍋、食べた事ないですよ!?」

騎士「そこまで言われると流石に照れるけど、喜んでもらえて何よりだ」

僧侶「……逆に先ほどの家庭料理ができないというのが、嘘をついている気がするぐらいですね」

騎士「よく言われるよ」

騎士「実はいけるんじゃないか、と思ってそう言った者達に試食させたら、皆残念そうな眼差しを向けるんだ……」

僧侶「す、すみません。古傷をえぐるような事を」


120 :
みんなの暇つぶしさん:2010/12/29(水) 15:52:09 ID:72k2oQAM
戦士「……お前は人間なんだよな?」

騎士「ああ、そういえばそこら辺は何も言ってなかったか。私は人間ではないよ」

騎士「見ての通り魔物でもないがね。今は魔法で隠しているが、背中に羽が生えている魔族だ」

僧侶「どうかされたんですか?」

戦士「……俺らの考えている魔王と違うと言っていたな」

戦士「もし、騎士みたいなので組織された魔王軍であるならば……」

戦士「国王から一方的に流される、魔王による宣戦布告は嘘なのではないだろうかと思ってな」

騎士「それは完全に嘘だな。少なくとも、魔王様がわざわざ宣戦布告なんてしてくる訳がない」

僧侶「その気なら宣言をする前に攻め込んでくる、という事でしょうか?」

騎士「え?いや、それは……ううむ、あるなぁ」

騎士「あ、すみません魔王様、否定できませんでした」


121 :
みんなの暇つぶしさん:2010/12/29(水) 15:59:21 ID:72k2oQAM
戦士「いきなり殴りこんでくるのか……何れにせよ恐ろしい存在だな」

騎士「基本は温和な方だぞ?」

僧侶「でもいきなり攻め込むんですよね?」

騎士「……ああ、それは間違いない」

騎士(それで一国を潰した、などと言ったら余計に怖がらせるだろうな)

戦士「……なにか、それ以上の事がありそうな顔だな」

騎士「それもこれも、この調査後に話を聞く選択を選んだら知る事になるさ」


122 :
みんなの暇つぶしさん:2010/12/29(水) 16:10:02 ID:72k2oQAM
騎士「城内のサンプルは粗方集められたし、山の方に向かうつもりだが君達はどうする?」

戦士「護衛で来ているのについていかなかったら給料泥棒ではないか」

僧侶「そういえば、何故私達を雇ったのでしょうか?」

騎士「一人でこの山を登るのが寂しかったからだ」

僧侶「……え、それだけですか?」

騎士「後は……君達が女勇者のPTだったからだ」

騎士「そう疑わしい眼差しを向けないでくれ。だから知る権利はある、と言ったのだ」


123 :
みんなの暇つぶしさん:2010/12/29(水) 16:13:28 ID:72k2oQAM
戦士「……」

僧侶「……」

戦士「このえぐれたのをやったのが、騎士が仕える魔王……」

僧侶「この世の終わりですね……」

騎士(あの人、規格外だものな)ゴソゴソ

騎士(中心地から遠いけど、一応は測定しないと……あ、陽性っ!)パン

僧侶「どうしました?!」

戦士「敵襲か!」

騎士「いや、機材が壊れただけだ……」

騎士「すまないが、周辺の土を集めてくれないか?これが容器だ」

戦士「大丈夫なのか?」

騎士「……ここに長居するのは、あまりよろしくない事は分かったよ」


124 :
みんなの暇つぶしさん:2010/12/29(水) 16:55:09 ID:72k2oQAM
騎士「おー……」

僧侶「騎士さんほどではないですが、今日は私が作ってみました」グツグツ

戦士「騎士とはまた違った旨さなんだよな、これが」

騎士「ああ……そうだな」

僧侶「もしかしてお口に合わなかったでしょうか?」

騎士「そんな事はない、凄く美味しい。美味しいのだが……」

騎士(これが家庭的な味なのだな……この娘の何倍も生きているのに、この味が作れないのだな、私は)

戦士「どうかしたか?」

騎士「そっとしておいてくれまいか……」


125 :
みんなの暇つぶしさん:2010/12/29(水) 17:10:01 ID:72k2oQAM
騎士「よし、ここの山もこれで終わりだな」

僧侶「土の採取はこれで終わりなんですよね?」

騎士「終わりだよ。君達を連れてきた目的はここから始めるんだけどね」

戦士「……」

騎士「そう構えない。さて、先日の話に戻ろうか」

騎士「君達は世界の真実を見てみる勇気はあるか?それを口外しない自信はあるか?」


126 :
みんなの暇つぶしさん:2010/12/29(水) 17:13:46 ID:72k2oQAM
戦士「真実だと?」

騎士「一人で旅を始めてからの女勇者の動向。ここで何が起こったのか。今現れた魔王」

騎士「君達にとって、全くの未知の世界である北の大陸」

騎士「そして、この南北の大陸の歴史。これを知る勇気は……あるかい?」

僧侶「……」オロオロ

戦士「だいぶ……想像していた内容とは違うな」

戦士「女勇者の事やここにいない今の魔王の事は、北の大陸と繋がっているのか?」

騎士「勿論。だが、この衝撃の事実は口外できないし、何より……もしかしたら、しばらくは町に戻れなくなるかもしれない」


127 :
みんなの暇つぶしさん:2010/12/29(水) 17:17:09 ID:72k2oQAM
戦士「知ったら連行されるという事か……ならば、女勇者はっ」

騎士「……君らが考える想像は大きく外れる事が前提だから、深く考えない方がいいよ」

僧侶「知った場合でも、あたし達に敵意は向けないでもらえるのでしょうか?」

騎士「知ろうと知るまいと友好的であるつもりだよ。ただ、知ったらいろいろな事を手伝って貰うかもしれないけど」

戦士「情報料分働け、という事か?」

騎士「働けというより手を貸してくれ、かな」

騎士「三食昼寝つきとまでは言えないが、現状より快適な暮らしを約束するよ」

戦士(確かに敵意はなさそうだが……言い回しが胡散臭いな)

僧侶(こういう事を仰るあたり、やはり私達の想像する魔王とは違うのでしょうか?)


128 :
みんなの暇つぶしさん:2010/12/29(水) 19:23:28 ID:72k2oQAM
……
騎士「……ふう、疲れた」

戦士「なっ、風景がいきなり、ここは屋内か?」

僧侶「魔法、なのでしょうか?こんな魔法があるなんて」

騎士「移動魔法だよ。予め移動する場所に魔法をかけておいて、移動時にも魔法を使う」

騎士「どんな距離でも移動できるが、燃費が悪すぎるし、使える人も殆どいない変な魔法さ」

魔王「……何というタイミング」

騎士「おっと、失礼致しました。ただ今帰還致しm、ぎゃあああああ幽霊ーーーーー!」

魔王「なに?!何処だ?!」

女勇者「いい加減、自分が死んだ扱いになっていた事を覚えてよー」


129 :
みんなの暇つぶしさん:2010/12/29(水) 19:31:13 ID:72k2oQAM
騎士「なに?!なんで?!」オロオロ

魔王「心配を掛けた様だが見ての通りだ」

僧侶「……女勇者、さん」

女勇者「久しぶり〜元気そうでなによりだよ」ヒラヒラ

戦士「お前、今まで……無事なんだな、怪我とかはしていないんだな」

女勇者「見ての通りだよ。ハードワークで大変だけどね」

僧侶「……あ、この方って、もしかして人買いの」

戦士「え……あ、貴様はっ」

騎士「よがっだ、よがっだよぉぉ、魔王ざまぁぁぁ」

魔王「おわーー!鼻水垂らして抱きつくなーー!」

僧侶「えっ?」

戦士「えっ?」


130 :
みんなの暇つぶしさん:2010/12/29(水) 19:41:41 ID:72k2oQAM
戦士「魔王……?」

僧侶「この方が……?」

女勇者「そうだよ。あ、そこら辺の話はこれからなんだっけ」

騎士「えぇ、ぞうでず」グズグズ

魔王「ああ、くそ、これじゃ威厳も何も、って俺は引退しているんだが」

女勇者「じゃあ、この方は先代魔王で」

戦士「何だこの軽いノリは」

僧侶「騎士さんが言っていた事が凄くよく分かります」

騎士「ぐすん……念の為に言うと、他の魔王様方はこの方みたいな変わり者じゃないですからね」

僧侶「えっ?」

戦士「えっ?」


131 :
みんなの暇つぶしさん:2010/12/29(水) 19:51:03 ID:72k2oQAM
戦士「他にもいるのか……?城と山を一撃で壊すようなのがか?」

騎士「どの方も全力ならそれくらいはさくっとできますね」

僧侶「……」オドオド

女勇者「大丈夫だよ。この人以外は皆、好戦的じゃないから」

魔王「フォローする気ないだろ」

女勇者「……貪る魔王」ボソ

魔王「ごめんなさい」フイ

戦士(え、今魔王が謝ったのか?)

僧侶(もしかして女勇者さん、この魔王を倒した?)


132 :
みんなの暇つぶしさん:2010/12/29(水) 19:55:19 ID:72k2oQAM
騎士「さて、積もる話もあるだろうが、二人はしばらく女勇者とは別に行動をしてもらうよ」

女勇者「えー」

騎士「魔物の王を倒す旅の事、こちらの大陸の事、魔王様や貴女及びその他諸々を説明するのに、どれだけ時間がかかると思っているんですか」

女勇者「別行動にまでしなくても……」

騎士「自分の仕事は?」

女勇者「あー……」

魔王「そうだぞ、責務は全うしろよ」

騎士「どの口がそんな事を言うのですか?」


133 :
みんなの暇つぶしさん:2010/12/29(水) 20:00:29 ID:72k2oQAM
戦士「本当にあれが魔王なのか?今部下から蔑まれていたぞ」

女勇者「あまりらしい事とかしていないからねー」

女勇者「でもこの国の為に尽力を惜しまないよ。だから皆は王として認めているんだよ」

僧侶「なんでしょうか。女勇者さんの話を聞くと、何処かの国の王様のように聞こえるのですが」

女勇者「似たような……でも、普通は国王が側近に殴られる事ないしなぁ」

僧侶「それは……国としていいのですか?」

女勇者「んー……日々の恒例行事?」

戦士「日頃、目下の者に殴られる国王って……」


134 :
みんなの暇つぶしさん:2010/12/29(水) 20:05:54 ID:72k2oQAM
戦士「というか……やけに魔王と親しそうだな」

僧侶「……もしかして付き合っている、とか?」

戦士「な、冗談、だよな、そんな事ないよな?」

女勇者「祝言はまだだけど、追々はそうなるつもりだよ」

戦士「そうか……なに?!」

僧侶「もう予定は組んでいるのですか?」

女勇者「いやー今はごたついているから、落ち着いたら改めて考えればいいっかなぁと」


135 :
みんなの暇つぶしさん:2010/12/29(水) 20:12:14 ID:72k2oQAM
戦士「……」

僧侶「その時は是非私達も、って戦士さんはどうされたのですか?」

女勇者「おーい、戦士君?」

戦士「いや、何でもない……俺の世界が、崩れ落ちただけだ」

僧侶「はあ……?」

女勇者「?」


136 :
みんなの暇つぶしさん:2010/12/29(水) 20:17:16 ID:72k2oQAM
魔王「あの二人についてはお前に任せる」

騎士「ええっ丸投げですか?!」

魔王「状況は想定した通りだからな。これと言って指示の変更は無い」

魔王「であれば、元より一任しているお前が継続して就くのが当然であろう」

騎士「まあ、そうですけども……」

女勇者「その心は?」

魔王「俺の仕事が減って遊びにいける」

騎士「やはりそこですか……」


137 :
みんなの暇つぶしさん:2010/12/29(水) 20:23:12 ID:72k2oQAM
魔王「まあ、冗談はいいとして、付き合いのあった国には周らないととは思っていたところだ」

女勇者「どうかしたの?」

魔王「流石の俺でも、心配をかけたのは分かっている。近いうちに詫びに行くつもりだったんだよ」

女勇者「ええ?魔王ってそんな真面目君だったっけ?」

魔王「……悪かったな普段は不真面目で」

僧侶「これが北の大陸の魔王……」

騎士「この方を例にするのもどうか、というところではあるけどね」

騎士「最も、こういったけじめに妥協できない不器用さとか、私は好きですけどね」


138 :
みんなの暇つぶしさん:2010/12/29(水) 20:31:21 ID:72k2oQAM
女勇者「あたしはどうしたらいいの?」

魔王「側近を補佐してやってくれ」

魔王「いい加減、過労で倒れる」

女勇者「優しいのね」

魔王「まあな」

女勇者「でも、復帰する気は無いのね」

魔王「まあな」


139 :
みんなの暇つぶしさん:2010/12/29(水) 20:38:39 ID:72k2oQAM
魔王「……そういう訳で俺はしばらく出かけてくるからな」

側近「はあ……」ゲッソリ

魔王「……え、栄養価の高い物を作らせている。今日は休んでおけ」

側近「しかし……それでは今日の仕事が……」

魔王「今日分の書類はこれだ」ドサドサ

魔王「依頼されていた力仕事で、俺が済ましたのはこれだ」ドサ

魔王「こっちは周辺の町の施設、整備関係と物流の新規提案に関する書類だ」ドサ

女勇者「……え、これ全部終わってる?!」

側近「な、馬鹿な!いくら何でも……ほ、本当だ」


140 :
みんなの暇つぶしさん:2010/12/29(水) 20:52:35 ID:72k2oQAM
側近「どうやって……」

魔王「簡単なもの……判を押すだけなら、読んだ書類を騎士に渡して判を押させればいい」

魔王「整備関係なら、その手の騎士を呼んで任せればいい。後はいくつか計画案を聞いて吟味するだけだ」

魔王「まあ力仕事関係は俺がこなしたが、あまり日数がかからないようなら、即座に騎士を派遣させればいい」

女勇者「本当に補佐だね」

魔王「こうなる事を見越して騎士の制度を作っていたのだが、上手く機能していないようだな……」

側近「ああ……成る程……やはり魔王様は魔王ですね……」

魔王「とりあえず、お前は少し休め……」


141 :
みんなの暇つぶしさん:2010/12/29(水) 20:57:34 ID:72k2oQAM
魔王「これで少しはあいつも落ち着くだろうし、ようやく出かけられるな」

魔王「近いところから周るとすれば、まずは樹海の国からだろうが」

魔王「……泣かれた手前、かなり行き辛いな」

魔王「……」

魔王「立ち止まるな!前を向け!腹を括って頭を下げろ!」

魔王「……気合を入れたからって、行きたくなる訳じゃないよなぁ」


142 :
みんなの暇つぶしさん:2010/12/29(水) 21:01:14 ID:72k2oQAM
魔王「そういえば直接来るのも、女勇者と来た以来か……」

魔王「一人で来たら来たで何を言われるのやら……」

魔王「それにしても、ここは本当に野草が多くていい所だな」


深緑の魔王「……なあ、何でいつもお前は人の領土内で収集とかしているんだ?」

魔王「……はっ、しまった!癖で!」

深緑の魔王「癖付いてるのかよ!」


143 :
みんなの暇つぶしさん:2010/12/29(水) 21:04:19 ID:72k2oQAM
深緑の魔王「で、今日はどうしたのさ」

魔王「あー……」

深緑の魔王「……何?」

魔王「うー……」

深緑の魔王「おー……?」

魔王(いよいよとなると勇気がいるな)


144 :
みんなの暇つぶしさん:2010/12/29(水) 21:18:37 ID:72k2oQAM
魔王「その、すまなかった」

深緑の魔王「いやいや、意味が分からない」

魔王「いや、だからな。その、ろくな挨拶も無く消えて、そして老い先短い身で戻ってきて」

魔王「あれだけ迷惑を掛けたのに、二度も悲しみを押し付ける事になって……すまない」

深緑の魔王「……はあ、本当に不器用な奴ね。いいって言ったでしょ」

深緑の魔王「こうして、また一緒にいられるんだから……それだけでいいのよ」

魔王「……そうか、すまんな」

深緑の魔王「というか詫びに来るぐらいなら、土産の一つ持って来いよなー」

魔王「あー……」


145 :
みんなの暇つぶしさん:2010/12/29(水) 21:22:22 ID:72k2oQAM
深緑の魔王「で、どーすんのさ。すぐに他の国に行くつもり?」

魔王「ああ、そのつもりではいるが」

深緑の魔王「何だよ、たまにはゆっくりしていけよー」

深緑の魔王「積もる話だってあるしさ。今晩くらい泊まってけって」

魔王「お前の方がいいなら俺は構わないが……」

深緑の魔王「よーし、そうと決まれば準備だ準備!」

深緑の魔王「そして、お前は今夜寝かせないからなー!」

魔王「え、何それエロい」

深緑の魔王「……お前の訴えが分からない訳じゃないけど、嫁候補がいる以上拒めよ」


146 :
みんなの暇つぶしさん:2010/12/29(水) 21:27:04 ID:72k2oQAM
深緑の魔王「ではでは……何にするかなぁ」

深緑の魔王「う〜ん……実りある樹海の恩恵に感謝しまして、乾杯!」

魔王「乾杯!」

魔王「見事に俺の存在は無関係の乾杯だったな」

深緑の魔王「まあまあいいじゃない」

魔王「にしても最近、俺の真似をするのが流行っているのか?」

深緑の魔王「え?ああ、別に流行ってはいないよ」

深緑の魔王「それだけ、あんたの帰還が嬉しいって事よ」

魔王「それとこれとは違うんじゃないか?」

深緑の魔王「多分……荒ぶる魔王と言ったら、と各魔王に聞けば、乾杯は必ず挙がると思うわよ」


147 :
みんなの暇つぶしさん:2010/12/29(水) 21:30:30 ID:72k2oQAM
魔王「うーむ……相変わらず、野草を使った料理が泣かせる」

深緑の魔王「あんただけよねぇ……料理を褒める魔王って」

魔王「相手には言わないだけで、断ち切る魔王とてそこの店の何が美味いとかよく話しているぞ」

魔王「流石に他国の店まで、とはいかないようだが」

深緑の魔王「へー……て、その言い方だとあんたは他国の飲食店まで詳しそうね」

魔王「ここの城下町?の噴水の近くに郷土料理の鍋モノを多く扱っている老舗があるだろ」

深緑の魔王「片田舎な場所だけど立派な城下町よ。で、あそこの店がどうしたって?」

魔王「代が変わってからはだいぶごたついていたが、ここ数年で以前以上の良い店になったじゃないか」

深緑の魔王「何で知ってるんだよ!というか内部の事情まで知ってるのかよ!」


148 :
みんなの暇つぶしさん:2010/12/29(水) 21:36:21 ID:72k2oQAM
魔王「は〜いい薬湯だった」ホクホク

深緑の魔王「おーそりゃ良かった。あ、部屋こっちね」

魔王「お、すまん……え?何これ?」

深緑の魔王「考えてみれば、お前がこっちに泊まるのって初めてだよなぁ」

魔王「いや、待てお前、何でベッドが二つあるんだよ」

深緑の魔王「えっ!一つで二人寝るつもりか?あたしはそんな寝相悪くないが、お前は大丈夫だよな?」

魔王「違う!いや、待て、今なんか!とりあえず、お前と俺が同じ部屋で寝る事を言っているんだ!」

深緑の魔王「そりゃあ、今夜は色々と話そうって言ったじゃないか」

魔王「寝かせないってそういう……いや、そもそもおかしいだろ!」

深緑の魔王「え……お前、あたしを襲うつもりでいたのか?」

魔王「お前……何時からそんな道から外れた考え方をするようになったんだ?」


149 :
みんなの暇つぶしさん:2010/12/29(水) 21:45:01 ID:72k2oQAM
深緑の魔王「んーお前には女勇者もいるし、そういう事にはならないと思ったんだけどなぁ」

魔王「いや、いるいない関係無く、こういう状態は間違いが起こりやすいだろう」

深緑の魔王「むー……まあ、お前なら伴侶とまではいかなくても、抱かれてもいいと思っているけどなぁ」

魔王「そんなカミングアウトをするな!何が狙いだ!既成事実か!」

深緑の魔王「お前……嫁いるのに慌てすぎじゃないか?おぼこって訳じゃないだろうに」

魔王「俺がおかしいのか……いや、そんなはずは」ブツブツ


150 :
みんなの暇つぶしさん:2010/12/29(水) 22:02:42 ID:72k2oQAM
深緑の魔王「何だかんだで押しに弱いよねー」

魔王「五月蝿いぞ」

深緑の魔王「そういえばさーずっと聞きたかった疑問があるんだよねー」

深緑の魔王「あたし達の種族って何で人の姿で生活しているのよ?」

魔王「また嫌な話題を……」

魔王「簡単だ。俺と同じ人型の魔族の所為だな。巨大化する魔族は人の姿を取る術を学ばされ」

魔王「その姿を取らされると共に、人型の魔族達の下に仕える形となった」

魔王「超がつくほどの昔話だ。今となっては、生まれてくる子供達も初めから人の姿であるほどに、定着した能力と言えるだろう……」

深緑の魔王「なるほどねぇ……」


151 :
みんなの暇つぶしさん:2010/12/29(水) 22:07:45 ID:72k2oQAM
魔王「最も、その当時は国と言うほどの大きな集まりは無かったそうだがな」

深緑の魔王「んー……そうすると水の国とか剣の国って相当古い国だけど、あの二人の種族が代々って訳でもないのか」

魔王「いや、その二ヶ国に関してはちょっと事情が違うようだ」

魔王「水龍と鎧大将軍は種族単位で優秀だった為、王として立てられたそうだ」

魔王「主だった政治や統治は、裏から人型の魔族が仕切っていたそうだがな」

深緑の魔王「傀儡、ね……」

魔王「良くも悪くもな」


152 :
みんなの暇つぶしさん:2010/12/29(水) 22:15:43 ID:72k2oQAM
深緑の魔王「それで、あんたのやろうとしている事はどうなったのよ」

魔王「あー報告書受け取ってないな」

深緑の魔王「……てっきりそれ込みで来たのかと思ったよ」

魔王「どの道、話を詰めるにはまず死の島に残された書物を漁らないとだからなぁ」

深緑の魔王「あ、そう……じゃあ、いーや。おやすみ……」

魔王「……あんだけ言ってて、まだ大した時間ではないぞ?」


153 :
みんなの暇つぶしさん:2010/12/29(水) 22:24:16 ID:72k2oQAM
深緑の魔王「……zzZ」

魔王「……後七十年程度か」

魔王「きっと……俺はやり遂げる事ができずに終わるのだろうな」

深緑の魔王「zzZ……」

魔王「……こいつが存命中であればいいが、次の代になったらどうする?」

魔王「見ず知らずの魔族の願いの為に、そこまで身体を張る者も少ないだろう……」

魔王「いや、先の事ばかり考えても仕方がないか」

深緑の魔王「……zzZ」

魔王「……深緑の魔王、俺はお前に辛い選択をさせてしまうかもしれない」

魔王「すまない……そして、親友でいてくれてありがとう」


154 :
みんなの暇つぶしさん:2010/12/29(水) 22:34:21 ID:72k2oQAM
深緑の魔王「何だよ、本当に一泊で行くのか」

魔王「まあ、他にも行くべき所はあるしな」

魔王「次の時には地酒を持ってくるさ」

深緑の魔王「そりゃあいい。こっちも旬のもので肴を作って待っているよ」

深緑の魔王「あ、鹿でも獲って干し肉を作っておこうか?」

魔王「……普段から弓を携えているだけはあるな。期待しておくぞ。ではまたな」

深緑の魔王「何時でも来いよー」

深緑の魔王「……」

深緑の魔王「……とっくに辛い選択をしてるよバーカ」


155 :
みんなの暇つぶしさん:2010/12/29(水) 22:38:42 ID:72k2oQAM
魔王「……山岳都市、来る必要があったのだろうか?」

魔王「こうして振り返ってみると、普通に話をしたりしているが、そんなに親しい訳でもないはずだが……」

山の魔王「こんな所で何をしているんだ?」

魔王「あー……いなくなった事と、これからいなくなる事と、二回も今生の別れを経験させる侘びを」

山の魔王「後にしろ。こちらは忙しい」

魔王「侘びを後にしろとか新しいな」

山の魔王「山岳都市と高山都市の合併で、色々と整備が必要なのだよ」

魔王「お前、半年前もそんな感じだったな」

山の魔王「これがデジャヴというものか……」

魔王「いや、それは……ああ、そうだな。きっとそうなんだよな」


156 :
みんなの暇つぶしさん:2010/12/29(水) 22:44:57 ID:72k2oQAM
山の魔王「待たせたな」

魔王「待たせ過ぎだろう。こっちは夕食を済ませちまったぞ」

山の魔王「問題ない。こちらも済んでいる」

魔王「それなら呼べよ。そっちの方が時間節約できるじゃないか」

山の魔王「狩る魔王と学者達で額を合わせ……」

山の魔王「地図を凝視しながら整備計画を練る夕食で良ければ、いくらでも招待してやるが?」

魔王「……大変申し訳御座いませんでした」


157 :
みんなの暇つぶしさん:2010/12/29(水) 22:55:05 ID:72k2oQAM
山の魔王「合併と合併における業務の成功を願いまして、乾杯!」

魔王「乾杯!またか!」

山の魔王「ふむ、位置的に樹海を先に行ったのか?」

魔王「そしてまた俺の存在が皆無!」

山の魔王「……あいつの場合、お前を含めた内容が思いつかなかった、というのが否めなさそうだな」

魔王「というより、事実それだから困る」

山の魔王「……そうか」


158 :
みんなの暇つぶしさん:2010/12/29(水) 22:57:56 ID:72k2oQAM
魔王「何故ここの御浸しはこうも酒に合うのだろうか」

山の魔王「今運ばせているのはつまみになるものを選んでいるだけだが?」

魔王「いや、だとしてもだな、これだけの種類があるというのがそもそも異常だと思うぞ」

山の魔王「私は普段から食しているから、あまり実感が沸かんな」

魔王「まあ、自分の生活環境なんてそんなものだよな」

山の魔王「ふむ……とするとお前の所のあのチーズ、お前は当たり前のように食していると」

魔王「あれを当たり前に食えるほど、俺の心は裕福じゃないぞ」

魔王「常に有難く思い、崇めつつ、至福の一時を噛み締める様に食べている」

山の魔王「いくら最高品質のチーズであれど、一魔王としてそれは……待て、崇めるとはお前」


159 :
みんなの暇つぶしさん:2010/12/29(水) 23:01:33 ID:72k2oQAM
魔王「ぐ……あ、朝……うっ」

山の魔王「ぐぅ……流石に飲みすぎたか」

魔王「あー……頭が、薬は……あったあった」サラサラ

山の魔王「すまないが……こちらにも一包……」

魔王「おうよ……にしても……どんだけ飲んだ?」

山の魔王「目の前の空の瓶を……数えればいい」サラサラ

魔王「浴びたな……」

山の魔王「節度も何もないな……」


160 :
みんなの暇つぶしさん:2010/12/29(水) 23:06:02 ID:72k2oQAM
魔王「あー……」

山の魔王「……もう一泊していくか?」

魔王「遠慮しておく。ここにいたらまた飲みそうだし」

山の魔王「試してみるか」

魔王「御免被るよ。水の国の清水でも飲んで落ち着くさ。この天候なら半日で着くさ」

山の魔王「試してみろよ」

魔王「どんだけ飲ましたいんだ」


161 :
みんなの暇つぶしさん:2010/12/29(水) 23:10:06 ID:72k2oQAM
魔王「はぁ……やはりここは落ち着くなぁ」

水の魔王「……えーと、本日はどうされたのですか?」

魔王「おお……丁度いい所に」

魔王「山の魔王と飲んだら二日酔いになって、落ち着ける為にここへ……」

水の魔王「は、はあ……寿命が縮まるにあたり、そのお身体も変質しているのかもしれませんし、あまり無理は……」

魔王「あ、ちょっと待ってくれ、何かおかしい。いや目的がおかしい」


162 :
みんなの暇つぶしさん:2010/12/29(水) 23:16:03 ID:72k2oQAM
水の魔王「お気遣いは嬉しいのですが、二日酔いの身体を押して来られても……」

魔王「……あれ、本当に何をしに俺はここへ」

水の魔王「まあまあ。折角いらしたのですし、ごゆっくりしていかれては?」

魔王「ああ、直ぐに発つ体力など残っていないしな」

水の魔王「それでは部屋の準備をさせておきますね」

魔王「すまんなぁ」

水の魔王「そう仰らずに。私の方こそ、どれだけ感謝してもしきれない程に、助けていただいているのですから」


163 :
みんなの暇つぶしさん:2010/12/29(水) 23:22:27 ID:72k2oQAM
水の魔王「それでは……荒ぶる魔王の計画の成功を願いまして、乾杯!」

魔王「か、乾杯っ!」

水の魔王「どうかされたのですか?」

魔王「やっとだ……やっと自分の存在が絡む乾杯をした」

水の魔王「……どちらの国々へ?」

魔王「山岳と樹海」

水の魔王「な、内容は?」

魔王「自分の国の事だった」


164 :
みんなの暇つぶしさん:2010/12/29(水) 23:28:26 ID:72k2oQAM
水の魔王「ところで……私にも手伝える事はありますか?」

魔王「今の所は気にしないでくれ」

魔王「というよりも、剣と火の国を回ったら、しばらくは死の島に篭るのだが」

魔王「そこが済まない事には頼む内容も曖昧な状態な訳で」

水の魔王「そうですか……もし遠慮をしているようでしたら、お気になさらないで下さいね」

魔王「……」

水の魔王「どうかされましたか?」

魔王「お前は本当に良い子だな……」ナデナデ


165 :
みんなの暇つぶしさん:2010/12/29(水) 23:33:13 ID:72k2oQAM
魔王「ほう……海鮮サラダとアボカドがこんなに合うとは」モグモグ

水の魔王「……♪」

魔王「どうかしたか?」

水の魔王「いえ、嬉しくて」

魔王「……え、そんな嬉しそうにする事が、前後の言動にあっただろうか?」

水の魔王「こうして二人きりで食事というのも、なかった事ですので」

魔王「あー……待て、そんな言い方をされると非常に気まずいのだが」

水の魔王「あ、いえ、そういう意味でなくてですね!その……私としては荒ぶる魔王は、兄のような存在なので」

水の魔王「こうして一緒に食事をするのが楽しいのです。ですから、えーと……また、何時でもお越し下さいね」

魔王(水の魔王を南の大陸の国王達に会わせるだけで、南北間の問題はまるっと解決しそうな気がしてならないな……)


166 :
みんなの暇つぶしさん:2010/12/29(水) 23:37:25 ID:72k2oQAM
魔王「ふあぁ……あーよく寝た」

水の魔王「本当に寝すぎですよ。朝食はそちらにありますので」

魔王「おお、すまんな」

水の魔王「息抜きも必要だとは思いますが、あんまりだらけ過ぎるのも感心しませんよ?」

水の魔王「それでは私は会議がありますので、これで失礼しますね」

魔王「おう、無理しない程度に頑張れよー」

魔王「……」

魔王「あれ、水の魔王が普通に良くできた妹に見えたぞ?」


167 :
みんなの暇つぶしさん:2010/12/31(金) 02:27:20 ID:FPJK3dKk
魔王「さあて、剣の国か……」

魔王「名物があまり無い……」

魔王「はぁ……」

断ち切る魔王「……中々に素晴らしい喧嘩の売り方だな」

魔王「そう思うなら農産業とかにも力を入れようじゃないか」

断ち切る魔王「この周辺の気候に沿った物の殆どは、他国で特産としてやっているからな」

魔王「諦め早いな……」


168 :
みんなの暇つぶしさん:2010/12/31(金) 02:31:58 ID:FPJK3dKk
断ち切る魔王「荒ぶる魔王の復活を祝いまして、乾杯!」

魔王「乾杯!」

魔王「やっぱ分かる大人の乾杯は違うな」

断ち切る魔王「無難にいったつもりだが……?」

魔王「そうか?水の魔王といいお前といい、嬉しい奴らだよ」

断ち切る魔王「ふむ」

断ち切る魔王「そうか、山と深緑は……」

魔王「そしてこの察しの良さ」


169 :
みんなの暇つぶしさん:2010/12/31(金) 02:34:17 ID:FPJK3dKk
魔王「何というか、プライベートでの付き合いがある魔王の中で」

魔王「断ち切る魔王が一番新しい知り合いのはずなのに、一番親友をやっている気がする」

断ち切る魔王「他の者に対してどうかは知らんが、普通に飲みに行こう、という感覚で会うからでは?」

魔王「あーそれはあるな。だって、お前と飲むと凄い穴場な店とか教えてくれるからな」

断ち切る魔王「……少なくとも半年前までは国長であったよな?」

魔王「役職的にはな」


170 :
みんなの暇つぶしさん:2010/12/31(金) 02:37:18 ID:FPJK3dKk
断ち切る魔王「それで、貴様の計画とやらはどうなった」

魔王「火の国行ったら死の島に渡る」

断ち切る魔王「何だ?まだ具体的な計画もできていないのか」

魔王「色々と調査をして、本当にそれが解決策であるか、と実験も行わなければならないからな」

断ち切る魔王「必要ならばこちらから学者を派遣させるぞ」

魔王「お、有難いな。追って連絡するよ」

魔王「断ち切る魔王と話すと、色々と詳細を省いても問題無いから楽なんだよなぁ」


171 :
みんなの暇つぶしさん:2010/12/31(金) 02:42:21 ID:FPJK3dKk
魔王「夕食の席で酒飲んで」

断ち切る魔王「風呂の場でも酒飲んで」

魔王「出てからも酒を飲む」

断ち切る魔王「普段どおりだな」

魔王「なのに、何故お前だけは非難されないのか不思議でたまらない」

断ち切る魔王「やる事をやっているかどうかだと思うぞ」

魔王「自分なりに努力はしているのだがなぁ……」

断ち切る魔王「正しい方向に努力していないからであろう」


172 :
みんなの暇つぶしさん:2010/12/31(金) 02:46:09 ID:FPJK3dKk
魔王「ふああ……」

魔王「後は火の国か」

断ち切る魔王「もう行くのか。相変わらず忙しない男だな」

魔王「急いでいるつもりはないのだが……そういう性分という事だ」

断ち切る魔王「まあ良い。また何時でも来るがいい。歓迎するぞ」

魔王「ああ、お呼ばれしてなくても馳せ参じるよ」


173 :
みんなの暇つぶしさん:2010/12/31(金) 23:01:37 ID:FPJK3dKk
魔王「おー相変わらず活気付いているな」

魔王「ま、北の大陸最大の温泉所だしなぁ」

火の魔王「お、今日はどうした?」

魔王「お詫び参り」

火の魔王「……どれのだ?」

魔王「どれ?!」


174 :
みんなの暇つぶしさん:2010/12/31(金) 23:10:02 ID:FPJK3dKk
魔王「俺はそこまで酷い評価をされているのか……」

火の魔王「いや冗談のつもりだったんだが……まあいいか」

火の魔王「で、俺は迷惑をかけられた覚えは無いが、何をしでかしたんだ?」

魔王「また死ぬ事と色々と投げっぱなす事だ」

火の魔王「そんな事で?」

魔王「軽く言われた!」

火の魔王「だいだい御互い、何があって何時死ぬかなんて分からないんだぞ」

火の魔王「一年後には病死して、職務丸投げるかもしれないってのに、逐一そんな事を言っていたら何もできなくないか?」

魔王「時々、その軽い性格とはうって変わって、現実主義なところは尊敬するよ」


175 :
みんなの暇つぶしさん:2010/12/31(金) 23:13:39 ID:FPJK3dKk
魔王「ふーー……やはり温泉はいいものだ」

火の魔王「それには同意するぜ」

魔王「この温泉卵も美味いし」モグモグ

火の魔王「名物だからな」モグモグ

魔王「そして地酒の『大文字』が泣かせる」グビリ

火の魔王「名物だからな」グビグビ

魔王「なあ、露天で飲むんだからもっと度数の低い物は無かったのか?」

火の魔王「名物だからな」


176 :
みんなの暇つぶしさん:2010/12/31(金) 23:18:07 ID:FPJK3dKk
魔王「ほう炙りサーモンとな」

火の魔王「こっちは肉類の炭焼きだぞー」

魔王「流石だ……この火加減、そう簡単にできるもんじゃないよな」

魔王「本当にここは火を扱う料理に精通しているな」

火の魔王「武力国家でない強みだ」

火の魔王(そう考えると、武力国家を数十年足らずで特産物だらけの豊かな国に変えたのは……)

火の魔王(紛れも無く、こいつの実力だよな)

魔王「何だ人の顔を凝視して……気持ちが悪いぞ」


177 :
みんなの暇つぶしさん:2010/12/31(金) 23:24:50 ID:FPJK3dKk
魔王「いやー……はっはっはっ食った食った」

火の魔王「あーそうだ。今度、魔王間の強さでも決める大会を催そうと思うが、どうだろうか?」

魔王「おー面白そうだな。だが、どうやって決めるんだ?」

火の魔王「そうだなー……御互い人型のまま、お前は羽とか無い状態で簡単に試合的な」

魔王「成る程……あ、くじでも引いて当たりを引いた奴は総当りとか」

火の魔王「お、いいなそれ!」

魔王(まあ、御互い酔っているし、お流れになるだろうな)

火の魔王(そういう場になったら、いの一番に嵌められそうな事ぐらい気付かないもんかな)


178 :
みんなの暇つぶしさん:2010/12/31(金) 23:29:53 ID:FPJK3dKk
魔王「ふあぁぁぁ……あー最近食っては寝ての生活だな」

火の魔王「お、やっと起きたか」

魔王「起きたら部屋に男がいるとか、嫌なルームサービスだ」

火の魔王「朝食持ってきてやったのにその言い草かよ」

魔王「侍女にでも持ってこさせればいいだろうに」

火の魔王「まあ、分かっていたけどな」

魔王「質の悪い嫌がらせだな……」


179 :
みんなの暇つぶしさん:2010/12/31(金) 23:51:46 ID:FPJK3dKk
魔王「相変わらず怪物が闊歩する島だな……」

魔王「子供の頃は、ここが歴史的にもとんでもない場所だとは思いもしなかったな……」

魔王「あれから何十年と経っているのに……ここの風は変わらず清清しいな」

魔王「さて、と……」

魔王「相変わらずこの小屋で暮らしているの……おや?」

魔王「いないとは珍しいな。少し島を回ってみるか」


魔王「見つからないとはこれまた珍しい。ま、ここで待ってりゃ夜にでも帰ってくるか」


180 :
みんなの暇つぶしさん:2010/12/31(金) 23:55:41 ID:FPJK3dKk
魔王「……」

魔王(一晩明けても戻ってこないなんて)

魔王(それに……この感じは昨日今日で放置された感じじゃないな)

魔王(……彼女は、転生した訳でもなくずっと生きていたんだよな)

魔王(俺と同じく理から外れた存在……しかも)

魔王「削るべき寿命がない、か」


181 :
みんなの暇つぶしさん:2011/01/01(土) 00:07:15 ID:b08Xm5p.
魔王「いいのかよ……これで」

ハルピュイア『あたしは坊やに出会え、共に生活できたんだ。満足しているさ』

魔王「俺自身は生きているぞ、まだ術の効力はあるんだぞ。術があるうちは、死ねないんじゃないのか?」

ハルピュイア『生きた時間で言えば、長すぎるくらいだからねぇ』

魔王「俺が目覚めるまで大してここを離れる事も無く、ただただ生きて眷属として命に従った」

魔王「それは生きるとは言わない。存在しているだけ、ただ居るだけの人生だったんじゃないのか?」


182 :
みんなの暇つぶしさん:2011/01/01(土) 00:14:54 ID:b08Xm5p.
魔王「世の中は変わっている。きっと貴女が見た事がないものばかりだ」

魔王「当時とは全く比べられない国も多い。農商国家だって、貴女の知っている国とは全く違う姿だ」

魔王「今は東の樹海に国がある。魔王はあの最強の魔族だ」

魔王「知っているだろう……ほんの数時間足らずで広大な砂漠を作り上げた、世界を滅ぼしうる種族だ」

魔王「とんでもない種族が魔王の癖に、酷く田舎臭い国さ」

魔王「ああ、そうだ。今となってはあの砂漠にも国があるんだぞ」

魔王「地獄と呼ばれたあの土地がだ」

魔王「他にも……他にもあって……」


183 :
みんなの暇つぶしさん:2011/01/01(土) 00:22:10 ID:b08Xm5p.
魔王「言い切れない、言い尽くせない量を見て、体験してきた!」

魔王「それだけの変化を過ごしたのに、それを見ずに終わろうと言うのか?!」

魔王「まだだ……まだだろう?違うか?!違わないだろう!!」

魔王「答えろ!ハルピュイア!!」

魔王「……」ギリ

魔王「……っくそ」


184 :
みんなの暇つぶしさん:2011/01/01(土) 03:06:00 ID:b08Xm5p.
魔王(そうか……俺はまだ親しい者との死別を経験した事はなかったな)

魔王(想像はしていたが辛いものだな)

魔王(これ以上、長居する事もないな)

魔王(今後はもう……この島に来ることはないだろう)

魔王「さようなら……俺が初めて触れた人」ガチャリ

ハルピュイア「ありゃまぁ、来ていたのかい?」


185 :
みんなの暇つぶしさん:2011/01/01(土) 03:10:29 ID:b08Xm5p.
ハルピュイア「悪いね、あれから小屋を移したんだよ。ここもいい加減ボロだからね」

ハルピュイア「そうそう、実を言うと……あたしもあの場にいたんだよ」

ハルピュイア「いやぁ……惚れ惚れとする演説だったわね」

ハルピュイア「あの坊やがあんな立派に成長しただなんて……お姉さんは感激だよぉ」

ハルピュイア「それに生き返れるかどうかがおまけだなんて、坊やらしい啖呵だねぇ」

ハルピュイア「本当に格好よかったもんだ。思わず……ってどうしたんだい?口から魂出かけてるわよ」


186 :
みんなの暇つぶしさん:2011/01/01(土) 03:14:29 ID:b08Xm5p.
魔王「いや、気にしないでくれ」

ハルピュイア「はあ……それならいいけどさ」

ハルピュイア「……ありがとうね」

魔王「……え?」

ハルピュイア「きっとこれで……魔王様も本当にお眠りになれるだろうから」

魔王「どうだかな。案外気が気じゃないんじゃないか」


187 :
みんなの暇つぶしさん:2011/01/01(土) 03:19:03 ID:b08Xm5p.
ハルピュイア「……ふふ」

魔王「どうかしたか?」

ハルピュイア「あの後、あたしも魔王様とは面談があったけども……凄い好印象だったよ」

魔王「もうあいつは自分の意思を残しておくのは無理だとか言っていたな……」

魔王「顔を会わせる事はもうないんだ。どう思われようと構わないさ」

ハルピュイア「あんまりそういう事を言うじゃないよ」

ハルピュイア「で、あたしが来る前に叫んでいた様な気がするけどなんだったんだい?」

魔王「っ」ビク


188 :
みんなの暇つぶしさん:2011/01/01(土) 03:22:14 ID:b08Xm5p.
……
ハルピュイア「あーーーっはっはっはっはっは、ひ〜〜、ひぃ〜〜、息、息が、あ〜〜っはっはっは」

ハルピュイア「はぁ……はぁ……ふぅ……」

ハルピュイア「あーーーっはっはっはっはっはっはっは!!」

魔王「う、うるせぇ!何回笑いなおす気だ!!」

ハルピュイア「だって!だって!っぶふ!げほ!ごほ!」

魔王「っくそ、何という失態を!」


189 :
みんなの暇つぶしさん:2011/01/01(土) 03:27:26 ID:b08Xm5p.
ハルピュイア「あ〜疲れた。もう今日は動きたくないわ」

魔王「そりゃあご苦労な事で」

ハルピュイア「ぷふ、本当何時まで経っても坊やのままね」

魔王「うぐ……くそ、返す言葉も無い」

ハルピュイア「ふふ、ありがとう。貴方が貴方のままで」

ハルピュイア「鎧姿の貴方を見た時、もう手の届かない何処かへ行ってしまった様な気がして、内心凄く寂しかったのよ」

魔王「よく言う。自分でここから追い出して……そうだよな、お前にとってあいつは魔王だもんな」


190 :
みんなの暇つぶしさん:2011/01/01(土) 03:31:16 ID:b08Xm5p.
ハルピュイア「あら、妬いてる?」

魔王「あんたの中で越えられていないもどかしさはあるな」

ハルピュイア「同列で見ろって言うほうが無理よ」

魔王「だろうな。飽くまで忠義を誓ったのはあいつだろうからな」

魔王「そこをいくと、俺はあいつの息子みたいな感じか……」

魔王「くそ、悔しいな」

ハルピュイア「あらあら、年下の男の子が妬いている……可愛いわぁ」


191 :
みんなの暇つぶしさん:2011/01/01(土) 03:34:11 ID:b08Xm5p.
ハルピュイア「で、そんな可愛い坊やはお姉さんに会いたくてここに来た、と」

魔王「間違ってはいないが、用があってきたんだからな」

ハルピュイア「穏やかじゃないわねぇ……何があったの?」

魔王「魔物の王について聞きたい」

ハルピュイア「……嫌な歴史よ?」

魔王「何を言っているんだ。俺の前世絡みですら嫌な歴史ばかりじゃないか」

ハルピュイア「それもそうね」

魔王「……そこは否定してやれよ。主君じゃないのかよ」


192 :
みんなの暇つぶしさん:2011/01/01(土) 03:36:15 ID:b08Xm5p.
ハルピュイア「魔物の王は立派な魔族よ。多くの国ができるまではね」

ハルピュイア「彼らの種族は常に、王とされる存在がいたわ。その王は周囲の獣を従わせる力を持っていたのよ」

魔王「魔物の王そのものだな」

ハルピュイア「当時はまだ従わせるだけ。魔物化なんて事は無かったはず」

ハルピュイア「ある時、王はその獣達を自らの魔力で魔物化させ、北の大陸の統一を目論んだのよ」

魔王「オチが見えてきたな……」

ハルピュイア「でしょうね。人型の魔族に呆気なく負け、彼の種族は皆殺し、王は島流しとされたのよ」

魔王「が、運良く大陸に渡り、私怨一筋で転生の術を会得した、と」

ハルピュイア「どうやって完成させたかまでは詳しく知らないけど、概ねそんなところね」


193 :
みんなの暇つぶしさん:2011/01/01(土) 03:43:33 ID:b08Xm5p.
ハルピュイア「で、感想は?」

魔王「俺にしても魔物の王にしても……もう退くべき古い存在だ」

魔王「いい加減、ご退場を願おうかな」

ハルピュイア「あら意外。坊やなら同情しちゃって、躊躇うかと思ったのだけれど」

魔王「俺がそんな優しい奴かよ。俺だっていい加減退場するんだ。やつにも終わりをくれてやらなければな」

ハルピュイア「あ、因みに、転生している魔物の王。皆別人で征服欲しかないみたいだからね」

魔王「自分の明確な存在意義する理解できていないのか……」

ハルピュイア「そういう事よ」

魔王「ならば……尚更眠らしてやらねば不憫で仕方が無いな……」


194 :
みんなの暇つぶしさん:2011/01/01(土) 03:46:02 ID:b08Xm5p.
魔王「予習もしたし……」

ハルピュイア「ええ!もう行っちゃうのかい!?」

魔王「い、いや、慈しむ魔王が残した書物を漁るつもりだが……何故、皆似たような反応をするんだ」

ハルピュイア「それだけ坊やが愛されてるのさ。ひゅーひゅー妬けるぅ〜」

魔王「あいつらの場合、少し事情が……まあいいか。何かあったら探すよ」

ハルピュイア「じゃあ、あたしはイタズラしにいくわね」

魔王「結構真面目なつもりだから止めてくれ」


195 :
みんなの暇つぶしさん:2011/01/01(土) 13:34:14 ID:b08Xm5p.
ハルピュイア「やっほー……ありゃ?」

魔王「……zzZ」

ハルピュイア「あーあー……書物に埋もれちゃってまあ……」

ハルピュイア「……」

ハルピュイア「ふふ……慈しむ魔王様にそっくりね……」プニプニ

ハルピュイア「ふふ……」プニプニプニプニ

ハルピュイア「……」ギニュ

魔王「イデデデデ!やめ、お前ーーー!」


196 :
みんなの暇つぶしさん:2011/01/01(土) 13:37:20 ID:b08Xm5p.
ハルピュイア「で、何か分かったのかしら」

魔王「魔物の王の生い立ちが明確になったぐらいだな」

ハルピュイア「肝心の転生の術については?」

魔王「やはり魔方陣を駆使したものである事ぐらいだな」

魔王「慈しむ魔王は魔物の王の転生する術から学んだのは確認できた」

魔王「何処かしらに魔物の王の魔方陣を画いた資料があるはずだが……」

ハルピュイア「……これだけ書物があるんじゃねぇ」

魔王「……目的の本を探すのだけで一月かかってしまいそうだよ」


197 :
みんなの暇つぶしさん:2011/01/01(土) 13:43:28 ID:b08Xm5p.
……
女勇者「あ、その資料はそちらに置いといて。ありがとうね」

女勇者「これは……うん、ここはこうして、騎士を一人付けてもらって」

女勇者「この法案は……あたしじゃ難しいなぁ、どう思います?」

側近「うーん、これは他の制度にも引っかかるから早急には無理だね。要調整の方に出しておいて」

女勇者「火の国の使者の方がお見えになりましたが、お通ししてもよろしいでしょうか?」

側近「いや、場所を移そう。あそこの部屋なら今空いているはずだよね」

女勇者「かしこまりました」


戦士「……」

僧侶「凄い……あの女勇者さんが国長の片腕を……」

騎士「はいはい、さぼらないさぼらない。よそ見している暇はないよ」


198 :
みんなの暇つぶしさん:2011/01/01(土) 13:45:37 ID:b08Xm5p.
女勇者「ふー……これで今日は一段落ついたねー」

側近「いやはや……たった一日で、業務が安定するとは……流石は魔王様だなぁ」

女勇者「にしても今どの辺なんだろう。まだお詫び参りの途中かな」

側近「こちらとしては、いい加減戻ってきて欲しいのですがね……」

女勇者「いやーまだ半月ですよ?」

側近「コボルト達との交渉など、一切引き継がれていないのですよ」

女勇者「っえ!」


199 :
みんなの暇つぶしさん:2011/01/01(土) 13:51:20 ID:b08Xm5p.
戦士「……平和だな」

僧侶「そうですねぇ……」

戦士「年齢で言ってしまえばお前もそうだろうが……俺は生まれた時から魔物の王がいて」

戦士「本当の意味での平和を見た事は無かった。いや、勿論暮らしていた所はのんびりとしたものだったが」

僧侶「あたしの方もそうでしたよ。ですが、それでも大人の方達はいつも、魔物の襲撃に備えてはいました」

戦士「必ず、物々しい装備を来た大人がいたのは、俺もよく覚えている」

戦士「……ここには、そうした緊迫感がない。本当に平和なのだろうな」

騎士「共存した世界でもそれを実現させるのが我々の望み。さあ、現実逃避をしてないで働く働く」

戦士「来る前の『手を貸してくれ』というのは、酷い詐欺だったわけだ」

僧侶「まあまあ、それを差し引いてもかなりのお給料なんですから」


200 :
みんなの暇つぶしさん:2011/01/01(土) 13:54:49 ID:b08Xm5p.
……
魔王「これでだいたいか……」

ハルピュイア「……坊や、その髭面は流石に感心できないわよ」

魔王「分かっている……少し寝たら身支度を整えるさ」

ハルピュイア「あら、もう行っちゃうの?」

魔王「流石に一ヶ月も本当に篭るわけにもいかんだろう」

ハルピュイア「それ、後三日で達成よ」

魔王「0か1の問題なのさ……おやすzzZ」


201 :
みんなの暇つぶしさん:2011/01/01(土) 14:05:34 ID:b08Xm5p.
魔王「ふああぁぁ……」

ハルピュイア「あらお目覚め?」

魔王「ああ……ずっとここにいたのか?」ジョリジョリ

ハルピュイア「まさか。そろそろ起きるかなーと思ったのよ」

魔王「それはそれで凄いな……」バシャバシャ

ハルピュイア「あら、折角朝食を持ってきてあげたのに、酷い言われようねぇ」

魔王「……ふう、それは悪かったな」

ハルピュイア「お、いい男に戻ったわね」

魔王「洗髪くらいしていかないと、人前には出られんがな」


202 :
みんなの暇つぶしさん:2011/01/01(土) 14:11:34 ID:b08Xm5p.
魔王「そういえば、ハルピュイアはどういう扱いなんだ?」

ハルピュイア「なにがだい?」

魔王「生命の理がどうとかさ。俺は寿命を縮めて措置されているが……」

ハルピュイア「どうにもなんないわよ?あたしは飽くまで坊やが死ぬまで生き続けるものよ」

ハルピュイア「まあ……これだけ生きていての代償としては安いものだけど、子を生む事はできないけれどもね」

魔王「そうか……」

ハルピュイア「そんな顔をしなさんな。納得ずくでやった事なんだからさぁ」

魔王「分かった。そういう事にしておく。それと」

魔王「ありがとう……生きていてくれて」


203 :
みんなの暇つぶしさん:2011/01/01(土) 14:15:08 ID:b08Xm5p.
……
側近「おや?魔王様、何時お戻りになられ……」

魔王「今戻ったところだ。すまんが俺はこれから篭るぞ」

剣の学者A「失礼致しますね」

剣の学者B「失礼致しまーす」

剣の学者C「わわわ……こんな所にまで来てしまって良かったのでしょうか?」

魔王「こちらから手伝いを願い出ているのだ。気にするな」ゾロゾロ

側近「……何が始まるのでしょうか?」

女勇者「さ、さあ……?」


205 :
みんなの暇つぶしさん:2011/01/01(土) 19:28:55 ID:b08Xm5p.
側近「戻ってきたというのに、もうまる一週間も篭りっぱなしで……」

女勇者「あたしに至っては、もう三日も顔すら見ていないよー」

僧侶「それはいけません!今すぐ、部屋から連れ出してもいいぐらいじゃないですか!」

戦士「というかあの学者達の中に、女性いなかったか?」

騎士「ええ、剣の国は職業において、男女差別が無いですからね。優秀な方なら女性でもなれ……」

女勇者「今すぐ引っ張り出してくるっ!」

僧侶「お供しますわっ!」

騎士「あー……学者肌の方が研究対象を目の前にそうなるとは思えないのですがね」

側近「おや、君はいいのかい?」

戦士「複雑な心境なんだよ……」

側近「あー……」


206 :
みんなの暇つぶしさん:2011/01/01(土) 19:39:40 ID:b08Xm5p.
女勇者「別の意味で大変な状況にぃ!」

魔王「放せっ!後少しっ!後少しで糸口が見えるっ!」

僧侶「魔王さん別の物が見えてますよ、きっと!」

学者A「止めろぉ!今邪魔されたらっ!」

騎士「あー……発狂していますね」

学者B「今は研究なのよ!この時間全てを研究以外に費やす必要はないのよ!何故止めるの!」

側近「何時見ても恐ろしい光景ですね……」

学者C「我々が何をしたと……何故止まられ……死ねばいいのに……」ブツブツ

戦士「……俺は何時の間に地獄に来たのだろうか」


207 :
みんなの暇つぶしさん:2011/01/01(土) 19:49:24 ID:b08Xm5p.
女勇者「……ふう、やっと落ち着いた」

騎士「彼らの処遇は?」

女勇者「二日ほど謹慎という名の監禁です」

騎士「普通に監禁ですよね?って、どうやって魔王様をお宥めに?」

女勇者「……」

女勇者「……プチ凍土」ボソ

騎士「えっ……」

戦士「おい、この部屋の扉、凍り付いているのだが……」

僧侶「内側から凍っているようですね。それにしても何故……」

騎士「えっ!?」


208 :
みんなの暇つぶしさん:2011/01/01(土) 19:58:26 ID:b08Xm5p.
魔王「酷い目にあった」

女勇者「やあ魔王!正気に戻って安心したよ!」

魔王「やあ女勇者!戻る前に旅立つかと思ったぞ!」

女勇者「だって皆半狂乱だったんだもの」

魔王「それは仕方が無い」

側近「そこは言い切って頂いても困るのですが」

女勇者「とりあえず、再開はしてもいい……」

魔王「っ」ッバ

女勇者「ですが、条件があります」ッガ

側近「よく今の速さを捕らえましたね」


209 :
みんなの暇つぶしさん:2011/01/01(土) 20:14:57 ID:b08Xm5p.
女勇者「ちゃんと三食食べる事!ちゃんと睡眠を取る事!ちゃんと適度に運動する事!以上!」

魔王「分かった。ちゃんと食事は取るが、部屋に通してもらえないか?」

学者A「まあ、そう言われては仕方が無い。しっかりと食事は取ろう」

学者B「りょーかいっ!わー、ご飯楽しみー」

学者C「え?ここの料理を頂けるんですかっ。そんな申し訳ない事をー」

女勇者「どうせ、魔王が頼んでいる事なんだし、このくらい気にしなくていいよー」

騎士「流そうとしているけど、この人達食事の事しか了承していませんよ」


210 :
みんなの暇つぶしさん:2011/01/01(土) 20:20:53 ID:b08Xm5p.
女勇者「……今日で四日も会っていない」

側近「やはり残り二つの条件は見事に無視された訳ですね」

騎士「というか……魔王様も連れ添う相手がいるのに、放置ともいうのもなぁ」

女勇者「むー、少し怒鳴り込んでくるかなぁ……」

騎士「面白そうだし付いていきますよ」

側近「あ、それでしたら鉱山に関する書類も渡しておいて下さい」

女勇者「分かりましたー。では、行って参ります!」


211 :
みんなの暇つぶしさん:2011/01/01(土) 20:30:31 ID:b08Xm5p.
魔王「……」タッタッタッタッ

女勇者「魔王が本を読みながら、ローラーの上を走っている……」

騎士「成る程……あれで屋内での運動を可能にしたのですね」

学者A「……っふ……っふ」ギッシギッシ

女勇者「ベンチプレスしながら、天井から吊るした本を読んでる……」

騎士「あれ?残りの二人は何処へ……っは!」

女勇者「人より二周り大きい本の山っ……!」

本の山BC「……zzZ」


212 :
みんなの暇つぶしさん:2011/01/01(土) 20:38:59 ID:b08Xm5p.
魔王「それでは、研究の前進を祝いまして、乾杯!」

女勇者「かんぱーい!で、何処まで進んだの?」

魔王「そろそろ魔方陣が完成しそうだよ」

女勇者「へー……え、完成かどうかって分かるの?」

学者A「言い方は悪いですが、小動物とかで実験してみて、ですね」

学者B「正確な魔方陣は分からないので、少しずつ改良していくしかないですけどね」

学者C「ですが、機能として同じであれば、完全な形でなくても大丈夫ですからねぇ」

魔王「まあそんな訳で、後少しなのさ」

学者A「これが一番大変なんですけどね……」


213 :
みんなの暇つぶしさん:2011/01/01(土) 20:50:19 ID:b08Xm5p.
側近「……中庭でテントが張られているのですが一体?」

女勇者「魔王の研究が大詰めらしいですよ」

側近「あー……それでは集中なさっているところですかね」

女勇者「どうかなさったのですか?」

側近「各国の魔王様方が催し物をなさるそうなのですが……飽くまでその連絡でしたので、今は控えていた方がいいでしょうかね」

女勇者「今までそういった事って行っていたのですか?」

側近「まさか。あの魔王様が他国に入り浸る真似をするまでは、各国厳格な付き合い方をしていましたからね」

側近「そういった意味でも、偉業を成したと言えなくも無いのですけどね」


214 :
みんなの暇つぶしさん:2011/01/01(土) 20:54:40 ID:b08Xm5p.
騎士「どんな調子ですか?」

魔王「まずまずだな……転生自体は成功している」

魔王「後は……そうだ、魔物の王の城での試料の解析は?」

騎士「それで来たのですよ。こちらになります」

学者B「そちらは?」

魔王「魔物の城と周辺の土を調べたものだ」

学者A「この魔力の残留量……やはり異常値ですね」

学者C「で、ですがまだ仮説の域を出ませんよね」

魔王「そこは追々実験して確かめるしかないだろうな」

騎士「目的は知っていても、会話の内容はさっぱりですね」

魔王「俺も人の事言えたものではないが、お勉強なんて全くしなかったんだから当たり前だろ」


215 :
みんなの暇つぶしさん:2011/01/01(土) 21:09:25 ID:b08Xm5p.
騎士「それと魔王様の採血を」

魔王「別に何処も悪くないのだが?」

騎士「いえ、どうにも学者の騎士達が不審がっていまして」

騎士「魔王様が魔方陣を傷つけた事で何かしらの影響がある、と睨んでいます」

騎士「というかぶっちゃけ、魔王様の魔力が取り込まれていないかを確認したいそうです」

魔王「あー……なるほど」

魔王「だが、これで取り込まれていたらぞっとしない話だな」

騎士「全くですね」


216 :
みんなの暇つぶしさん:2011/01/01(土) 21:22:46 ID:b08Xm5p.
断ち切る魔王「ここにいたか」

魔王「おー……って、結果を出せるまで、まだ時間がかかるんだが」

断ち切る魔王「ちょっとした行事を行う旨を伝えておいたはずだが……」

魔王「あー側近がいらない気遣いをしたかな?」

魔王「ま、少し休憩を兼ねる分にはいいか。一体何をするって?」

断ち切る魔王「試合だ」

魔王「……え?」

断ち切る魔王「魔王対魔王の試合だ」


217 :
みんなの暇つぶしさん:2011/01/01(土) 21:26:50 ID:b08Xm5p.
火の魔王「ルールは簡単。武器はこの特殊な素材で作った物を使用する」

火の魔王「重さはあるが当たっても大して痛くは無いが、この通り衣服に色が付く」

火の魔王「魔法等の使用は可。但し、当然ながら本気モードや荒ぶる魔王の魔力の武具は不可とする」

火の魔王「基本、全身の七割くらい色が付く、相手が降参、ダウンを取って組み伏せれば勝ち。まあこんな所だな」

火の魔王「参加者は俺と水、荒ぶる、断ち切る、山、深緑」

火の魔王「トーナメント形式で行うから、くじ引きで決めるぞー」

深緑の魔王「……何時ものメンバーね」

山の魔王「飽くまで試しらしいからな。だが、たまにはこういうのもいいかもしれんな」

水の魔王「……圧倒的に私が不利な気が」

断ち切る魔王「いや……お前の魔法の力を考えると、俺は相手をしたくないぞ?」

魔王「……」

魔王「何故かとっても嫌な予感しかしない……」


218 :
みんなの暇つぶしさん:2011/01/01(土) 21:32:11 ID:b08Xm5p.
魔王「なんだよこれ!俺だけ数字じゃなくて○ってなんだよ!」

火の魔王「お、それは当たりだ。トーナメントから、荒ぶる魔王による総当りが決定」

断ち切る魔王「ほう、それは面白い」

魔王「面白くねーよ!誰だ!誰が嵌めやがった!」

深緑の魔王「公正ナクジ引キノケッカヨー」

火の魔王「ソウダソウダー、ミグルシイゾー」

魔王「ぐ……こ、こいつら!」


219 :
みんなの暇つぶしさん:2011/01/01(土) 21:43:50 ID:b08Xm5p.
女勇者『えー、では司会の女勇者です!』

戦士『し、審判の戦士だ』

僧侶『救護班の僧侶です』

深緑の魔王「というか、人間増えているのね」

水の魔王「何があったのでしょうね……」

女勇者『では、まず第一戦!荒ぶる魔王対断ち切る魔王ーーー!!』

魔王「初めからこんな消耗する相手とは……」

断ち切る魔王「何れにしてもどの道当たるのだ。さあ、かかってくるがいい!」

魔王「しかもノリノリだな」


220 :
みんなの暇つぶしさん:2011/01/01(土) 21:48:54 ID:b08Xm5p.
女勇者『勝者、断ち切る魔王ーーー!』

魔王「……」ベットリ

水の魔王「……ま、真赤な姿に」

火の魔王「剣は赤、槍は黄、棍棒と杖は緑が付くからなー」

山の魔王「この色は大丈夫なのか?」

火の魔王「三十分も経てば消えるさ」

女勇者『さあ、次はーーー!荒ぶる魔王対山の魔王ーーーーー!』

魔王「え……休憩なしの連戦?」


221 :
みんなの暇つぶしさん:2011/01/01(土) 22:00:19 ID:b08Xm5p.
山の魔王「こうして対峙するのは初めてだな」

魔王「当たり前だろう」

山の魔王「良い事を教えてやると、一部の魔王を除いて種族固有の技を持っている」

魔王「知識としては知っているさ」

山の魔王「だとは思ったさ。この場だと深緑の魔王と断ち切る魔王には無いな」

魔王「……で?」

山の魔王「全力であればお前に勝つなど夢の話だろう……。だが、お前の魔力を物質化させる力は無効、こちらの技は有効であれば」

山の魔王「お前に土をつける事ぐらいはできるのだ……震砕!」ッゴ


222 :
みんなの暇つぶしさん:2011/01/01(土) 22:09:16 ID:b08Xm5p.
女勇者『しょ……勝者、山の魔王ーー!ってゆーか魔王生きてるー?』

水の魔王「荒ぶる魔王が壁に……」

僧侶「救護班行きます!」

火の魔王「おー初めて見たけどすげーな」

断ち切る魔王「前方の小範囲に強大な衝撃を与える攻撃だろうか」

魔王「こ、これは……書物で何となくは知っていたが、これほど強力なものだとは……」

深緑の魔王「おーなんだかんだで生きてるじゃん」

女勇者『次はーー!火の魔王ーーーー!』

断ち切る魔王「お前、名前を呼ぶのさえ省略されているぞ」


223 :
みんなの暇つぶしさん:2011/01/01(土) 22:25:18 ID:b08Xm5p.
魔王「で……お前も種族の固有技を使う、と」

火の魔王「まあ、滅多に撃つもんじゃないしな」

魔王「これさ……試合じゃなくて俺を的にしているだけだよな」

火の魔王「先制して勝ちをとりゃあいいじゃないか」

魔王「そう簡単にいくかよっ!」ッフ

火の魔王(流石に早いが)

火の魔王「灰燼」ッカ

魔王「もらっ、なん、熱っ」シュボ


224 :
みんなの暇つぶしさん:2011/01/01(土) 22:34:50 ID:b08Xm5p.
女勇者『はい、まお、荒ぶる魔王の負けー!』

水の魔王「趣旨が変わってきている気が……」

深緑の魔王「まあそんなもんじゃない」

山の魔王「流石にやり過ぎだ。荒ぶる魔王が魔力の障壁を作らなかったら、消し炭になっていた可能性があったぞ」

魔王「俺もびっくりだ……殺されるかと思ったぞ」

火の魔王「す、すまん!本当にすまん!加減が分からなかった!」

魔王「分からないなら使うなよ!」

女勇者『さー次はー深緑の魔王ー!』

魔王「まだ続くのか!」

深緑の魔王「総当りだからねー」


225 :
みんなの暇つぶしさん:2011/01/01(土) 23:02:36 ID:b08Xm5p.
魔王「待てよ……お前の種族は固有の技はない。それに着色できる武器に弓は無い……」

魔王「勝ちは貰ったぁ!」

深緑の魔王「あー……あたしはさー。技は無いけど、色んな魔法を使えるんだよねー」

魔王「だが……先手を奪えばっ!!」

深緑の魔王「鈍化魔法・強、防御低下魔法・強。駄目押しで束縛魔法・強」

魔王「ぐ、くくく……だが、そう長くは続かないぞ……」

深緑の魔王「魔力だけは馬鹿みたいにあるもんね。立ち直りが早いくらい分かっているわよ」

深緑の魔王「だから正の効果を当てる隙さえ得られればいいのよ。マジックチェンジ」

魔王「な、力が抜けていく……?」

深緑の魔王「対象の腕力を犠牲に魔力を高めるけど、今のあんたにとっては無駄もいいところよね」

深緑の魔王「で、あたしは全ての魔力を犠牲に腕力を高めるパワーチェンジ」

魔王「え……あ、待って降参すr」


226 :
みんなの暇つぶしさん:2011/01/01(土) 23:07:35 ID:b08Xm5p.
女勇者『勝者、深緑の魔王ー!』

深緑の魔王「いえーーい!」

水の魔王「勇者さんは少しお疲れの様子ですね」

火の魔王「あんだけ叫んでりゃ、喉も痛くなるよな」

魔王「……つーかさ、いじめか?あいつにマウントポジション取られて、ボッコボコに殴られるとかさ」

魔王「抑えた時点で俺の負けじゃないのかよ……」

僧侶「救護班入りまーす」

魔王「疲労も取れる魔法を頼む」

僧侶「ありませーん☆」ニッコリ

魔王「ですよねー」

女勇者『さあ!ラストです!荒ぶる魔王対水の魔王!』

断ち切る魔王「……ある意味非常に見ものの試合だな」

山の魔王「……ゴクリ」

戦士(俺、いる意味ねーなぁ……)


227 :
みんなの暇つぶしさん:2011/01/01(土) 23:28:29 ID:b08Xm5p.
魔王「や……やるというのか、お前も」

水の魔王「私としてはこんな結果になるとは思っていなかったのですが……」

水の魔王「ですが、賛同した以上、やり通す事は責務だと思っていますっ」

魔王「こんな時まで真面目でなくてもいいんだが……」

水の魔王「なので、私も全身全霊にてお相手致します!」

魔王(水の魔王の種族の技はなんだ……?いや、やはり先手で抑えねば!)

水の魔王「間欠泉!」ッド


228 :
みんなの暇つぶしさん:2011/01/01(土) 23:46:36 ID:b08Xm5p.
断ち切る魔王「お前もこんな時まで真面目にルールを守るとはな」

女勇者『はい、水の魔王の勝ち!終了ーーー』

火の魔王「吹き上げられたお前が、そのまま落ちてくる図はシュール過ぎて笑えないな」

魔王「好きで落ちた訳じゃないさ!」

水の魔王「す、すみません!あのような技、初めて使うものでして!」

魔王「ぐ……いや、お前は悪く無いから気にするな」

火の魔王「俺の時とはえらい違いの対応だ」

山の魔王「まあ、妹に怒鳴れるほど荒ぶる魔王も強くないという事だな」


229 :
みんなの暇つぶしさん:2011/01/01(土) 23:52:13 ID:b08Xm5p.
断ち切る魔王「それでは日頃の鬱憤をぶつけた事を祝いまして、乾杯!」

「「「乾杯!」」」

魔王「どう見ても集団リンチです。本当にありがとうございました」

火の魔王「タイマンだったからいいじゃないか」

魔王「何処がだよ!」

山の魔王「被害は当人達のみなのだし平和なものだ」

魔王「達じゃねーよ、俺一人じゃねーか!」

深緑の魔王「生きているんだからいいじゃなーい」

魔王「行き着くところまで行きやがったな」


230 :
みんなの暇つぶしさん:2011/01/02(日) 00:47:27 ID:ulwjkW5.
火の魔王「冗談はさておき、お前の計画ってのはどうなったんだよ?」

魔王「本当にあれが冗談なら、俺はブチ切れていいと思うんだ」

魔王「まあ……その話をすると大詰めといった所かなぁ」

魔王「だいたいの魔法陣の形は分かったよ」

断ち切る魔王「ではメカニズムもか?」

魔王「長い年月をかけて大気と大地から魔力を吸い上げて溜め込み」

魔王「限界点に達した時、魔方陣が起動して魔物の王が現れる」

魔王「過剰分の魔力は空へと吹き上げられ、瞬時に周囲の動物を魔物化」

魔王「そして数日の内にその魔力は南の大陸を包み込み、全てではないがあらゆる動物を魔物化する」

魔王「仮説ではあるが、恐らくこれがだいたいの正解だろうな」


231 :
みんなの暇つぶしさん:2011/01/02(日) 00:56:47 ID:ulwjkW5.
女勇者「ちょっと待って」

女勇者「魔物の王の力で魔物化しているんじゃないの?」

魔王「魔物の王が死ねば、奴の魔力も魔方陣の中に貯められる」

魔王「自然の魔力で薄くなるだろうが、復活直後に魔物化させる分には問題ないのだろう」

魔王「魔物の王自身が遠くに出撃しないのは、そういった点が深層意識の中にあるのかもしれないな」

深緑の魔王「え、何それ……?」

魔王「魔物の王は元々こちら側の魔族。北の大陸を統一しようとして失敗。島流されるも南の大陸に行きつき」

魔王「転生の魔方陣を完成させるも、今の奴らには支配欲しか残っていないそうだ」

断ち切る魔王「自分が何かすら分からないとは哀れだな……」

魔王「俺もそう思うよ」


232 :
みんなの暇つぶしさん:2011/01/02(日) 01:10:34 ID:ulwjkW5.
魔王「どうでもいい話だとは思うが、他にも魔物の王の事について分かった事がある」

魔王「さっきの話と被るが、魔物の王は元々こちら側の魔族で、その時は動物を従える程度だったようだ」

魔王「その後、魔力で動物を魔物化して北の大陸統一を目指すも撃沈し、一族皆殺しで南の大陸に」

魔王「慈しむ魔王が現れる前に絶えたとされる種族が、転生に関する術を研究していたそうだが」

魔王「魔物の王の種族はこれを協力していた様だ」

山の魔王「また転生、か……」

魔王「俺もそう思う……。で、南の大陸で完成させた、と」

女勇者「その種族は何で滅んだの?」

魔王「子供が中々できない種族らしい。だからこそ転生の秘術を欲したのだろう」

魔王「これは俺の推測だが、南の大陸で動物と会話できる『魔物の子』と呼ばれる者は、南に渡った魔物の王の血を引いているのだろう」

女勇者「成る程、そう考えると辻褄も……でもそれにしてはあまりいないような」

魔王「まあ全員が全員、会話できるとしたら相当な人数になっているだろうからな。血を引いていれば会話できる、かもしれない程度なのだろう」

女勇者「あーそういう……ああ!他の魔王様方が蚊帳の外に」

火の魔王「そりゃあ南の大陸の人間についてなんて分からないからな」


233 :
みんなの暇つぶしさん:2011/01/02(日) 01:16:51 ID:ulwjkW5.
水の魔王「対策としてはその魔方陣を総攻撃しようという事でしょうか?」

女勇者「そーいえば、魔王が派手に山とか崩したけど、あれじゃ駄目なの?」

魔王「あまりにも長い間、魔力を溜め込んでいたからな」

魔王「特に魔方陣の線の部分に、大量の魔力が残留するようだ」

魔王「実験の段階で確認できたんだ。魔物の王の城の魔方陣はもう、完全に魔力の線で魔方陣ができているだろうな」

深緑の魔王「うーん、じゃあどうするのさ?城の周辺を根こそぎ破壊する気?」

断ち切る魔王「聞く話からすれば、それではどうにもならなさそうだな」

山の魔王「既に荒ぶる魔王が傷つけても、機能している魔力による魔方陣か……」

深緑の魔王「……あー」


234 :
みんなの暇つぶしさん:2011/01/02(日) 01:20:11 ID:ulwjkW5.
水の魔王「まさか方法は……」

魔王「できるとしたら、深緑の魔王の本来の姿による力で以って、魔力を吸い上げる事だろうな」

火の魔王「だが、山全体となると結構の範囲なんだろう?そんな広範囲にまで拡散して大丈夫なのかよ」

深緑の魔王「まあ……元の姿には戻れないでしょうね」

山の魔王「……お前」

魔王「どの道、まだ調べている途中だ。いやそもそもこんな手段、実行させられない」

魔王「それに魔物の王が復活しないと魔法陣が持つ魔力が高すぎるからな」


235 :
みんなの暇つぶしさん:2011/01/02(日) 01:24:08 ID:ulwjkW5.
魔王「今報告できる事は以上だ」

水の魔王「……一つだけお聞きしてもいいでしょうか?」

山の魔王(何時になく凄みがあるな)

火の魔王(あの話の内容じゃなぁ)

水の魔王「荒ぶる魔王は、例え誰かが犠牲になってでも魔物の王の魔方陣を滅ぼすべき、とお考えなのでしょうか?」

魔王「誰か……か。可能かは分からないが……俺はそのつもりだ」

水の魔王「そんなっ……」

女勇者「魔王……」


236 :
みんなの暇つぶしさん:2011/01/02(日) 01:33:33 ID:ulwjkW5.
魔王「犠牲になるのは俺だ。俺だけで十分だ」

魔王「あれは魔力を貯める為ではない。その魔力で魔物の王を甦らすのが目的だ」

魔王「魔物の王さえいれば……俺の魔力を全て魔方陣に注ぎ、魔力を限界まで充填させる」

魔王「そしてその魔力を発散させる為の転生を起こせず、魔方陣は暴走して破壊させられるだろう」

魔王「それが、俺の考えだ」

水の魔王「……荒ぶる魔王」

断ち切る魔王「……」

火の魔王「どうでもいいが、魔物の王復活より先に、お前が死ぬと思うんだがなぁ」


237 :
みんなの暇つぶしさん:2011/01/02(日) 01:45:11 ID:ulwjkW5.
魔王「そうなんだよなぁ……絶対寿命足りないって」

女勇者「確か前の時がお祖父ちゃんが子供だった、て言っていたから六十年ぐらい前かな?」

山の魔王「それなら何とかなるんじゃないか?」

女勇者「今までに比べて相当早いって話だけどね」

魔王「まあ……他の手段を考えるさ」

水の魔王「そうです!」バン

水の魔王「例え誰であっても、誰も犠牲を出してはならないのです!」

水の魔王「時代は変わりました……過去の怨恨を、今を生きる誰かを犠牲にして払う必要はないのですっ」


238 :
みんなの暇つぶしさん:2011/01/02(日) 01:50:47 ID:ulwjkW5.
水の魔王「だから……誰も……深緑の魔王も、荒ぶる魔王も……犠牲になど……」グスグス

火の魔王「おいおい、何も泣く事は……」

断ち切る魔王「む、……これは酒か?」

魔王「水の魔王が……?待て、これを注いだのは」

深緑の魔王「……」ソー

魔王「お前……」ガッ

深緑の魔王「悪かったって!こんな事になるとは思ってもいなかったんだって!」


239 :
みんなの暇つぶしさん:2011/01/02(日) 01:55:04 ID:ulwjkW5.
戦士「すっかり蚊帳の外だな」

僧侶「まあまあ、仕方が無いじゃないですか」

戦士「にしても、これが北の大陸の魔王か……」

騎士「全員ではないが、その認識で違いはないだろうね」

戦士「俺達は随分と狭い世界で生きていたんだな」

僧侶「私達が打倒魔王を胸にしたもっと以前……それこそ生まれる前から、全く別の世界はあったのですね」

騎士「そう思うのも仕方がないだろうね。南の大陸は北の事に関してからっきしだったようだし」

女勇者「それにしても、これだけの人数が集まって食事を取るのは初めてかも」

側近「私だってこんな光景初めてですよ。この数十年で、北の大陸もだいぶ変ったものです」

火の魔王「す、すまん側近君!桶か何か場所はないか!」

水の魔王「うぷ……気持……悪」

側近「ええぇぇぇぇ!!」


240 :
みんなの暇つぶしさん:2011/01/02(日) 02:01:20 ID:ulwjkW5.
ギャー ギャー
魔王「……な、何が起こっているんだ向こうは」

深緑の魔王「で、わざわざお説教する振りして、あたしを連れてきてどうしたのよ」

魔王「さっきの話だ。俺は誰かを犠牲にする気にはならん」

魔王「だからお前も、この件については忘れろ」

深緑の魔王「本当に他の方法があるのかねぇー」

魔王「……それを調べるんだ」

深緑の魔王「まあいいわ。でも……最終結果はちゃんと伝えなさいよ」

深緑の魔王「手がなければ、あたしは命を懸けるわよ」

魔王「だから俺は……!」

深緑の魔王「自己満足の罪滅ぼしよ……過去の悲劇の。これはあたしの意思よ。だから、あんたにだって口出しはさせないわ」


241 :
みんなの暇つぶしさん:2011/01/02(日) 02:10:41 ID:ulwjkW5.
火の魔王「おーやっと帰って来たか」

魔王「……何の騒ぎだったん、水の魔王の顔色が非常に良くないように見えるのだが」

水の魔王「うー……荒ぶる魔王は、何時もこのような物を浴びるほどお飲みになられていたとは」

魔王「……ほら、この薬を飲んで少し休んでいなさい」

水の魔王「も、申し訳ないです……」

山の魔王「……兄弟だな」

深緑の魔王「……お兄ちゃんね」

火の魔王「お前ら他人事のように……ちったぁ手伝ってくれよ。戻す直前で大変だったんだぞ」

山の魔王「何とか我慢できたのだし、結果オーライだろ」

魔王「……やはり山の魔王と深緑の魔王は、しばいておく必要がありそうだな」


242 :
みんなの暇つぶしさん:2011/01/02(日) 02:18:44 ID:ulwjkW5.
……
女勇者「どうしたの?皆が帰ってからずっと冴えない顔をしているけど」

魔王「んー……ああ……恐らく、俺の寿命はもたないし、深緑の魔王の種族の命を捧げる以外の方法はないだろうな」

側近「それは……」

魔王「あいつはご先祖の行いに責任を感じているようだ。馬鹿な奴だよ……」

魔王「その尻拭いに身を捧げたいって言っていた」

女勇者「止める事はできないの……?」

魔王「正直、俺が死んだ後の事であればどうしようもない」

魔王「おまけに深緑の魔王自身が存命中に果たせないとなると、とんでもない行動に出るだろうな」

側近「それは一体どういった事でしょうか?」

魔王「あの種族だからこそできる、常軌を逸した行動だ……機会があれば話すが、口にするのも嫌になる」

魔王「全く……こんな事なら話さなければよかった」


243 :
みんなの暇つぶしさん:2011/01/02(日) 02:20:50 ID:ulwjkW5.
魔王「すまんがそういう訳で、しばらくは三人で進めてくれ」

学者A「まあ、後は魔方陣の消滅の仕方だけですし」

学者B「知識も必要だけど……ここまで来るとアイディアや発想の転換ね」

学者C「か、必ずや成果が出せるよう努力します!」

魔王「では、よろしく頼むよ」


ハルピュイア「凶報を担いだような顔をして来ないでちょうだいな」

魔王「すまんが無理な話だ」


244 :
みんなの暇つぶしさん:2011/01/02(日) 02:28:37 ID:ulwjkW5.
……
魔王「という事情により俺は魔剣と化して、未来に託そうと考えている」

ハルピュイア「はー……物理的ではなく、剣に宿る意識として生きようってかい?」

ハルピュイア「流石の魔王様も、こんな延命まではお考えじゃなかったでしょうねぇ」

魔王「っふ……勝った」

ハルピュイア「相変わらずねぇ……」

魔王「それはそうと、俺の言った理論……本当にできるものだろうか?」

ハルピュイア「そうねぇ……時間経過でどれだけ魔力が消費していくのか。そこがある程度クリアできれば問題ないでしょうけど」

魔王「祠を封印して漏れない様にするとかか」

ハルピュイア「ま、できる手段なんてそんな所でしょうね」


245 :
みんなの暇つぶしさん:2011/01/02(日) 02:35:02 ID:ulwjkW5.
魔王「……これをしたら、貴女はきっと」

ハルピュイア「物理的に生きていないものね」

ハルピュイア「それならそれで先に休ませてもらうだけ。坊やは目的を果たしてから来ればいいさ」

魔王「すまないな……後数十年。片っ端から魔石を生成して、魔力のタンク代わりになる量ができたら……剣になるよ」

ハルピュイア「……」

魔王「どうかしたか?」

ハルピュイア「運命か血なのか……この場合は魂かしら」

ハルピュイア「こうして巡るのね……魔王様が後世を憂い、もう一人の自分を残したように」

ハルピュイア「坊やもまた一振りの剣として、後世へと残していく……」

魔王「だがこれで終わりだ。もう何も続かない。俺で最後だ」


246 :
みんなの暇つぶしさん:2011/01/02(日) 02:42:34 ID:ulwjkW5.
ハルピュイア「あら、お嫁さんがいるんじゃないの?」

魔王「それはそうだが?」

ハルピュイア「貴方達二人のように残す事は無くても、貴方達の意思や志はきっと、坊やの子供達に受け継がれていくわよ」

魔王「嫁を置いて……子も置いて去ろうとする身で、一体何を伝えられるのだろうなぁ」

ハルピュイア「どうせ考えたって何もでないのでしょう?だったら信じるままに進みなさいな」

ハルピュイア「坊やが理論的になるとか倫理を気にするとか、ちゃんちゃらおかしいのよ」

魔王「……蔑まれた気がするのだが」

ハルピュイア「気のせいよ」


247 :
みんなの暇つぶしさん:2011/01/02(日) 02:46:04 ID:ulwjkW5.
ハルピュイア「それにしても……わざわざそんな事の為に来たのかしら?」

魔王「そんな事って言い方は無いと思うのだが……」


慈しむ魔王『彼女の事を気遣ってくれ……私の為に苦労をさせてしまった』

慈しむ魔王『残りの寿命はお前の好きにすればいい。私はお前の事を信じようと思う』


魔王「ま、今まで散々助けられたのだし、あまり返せる物はないだろうが、ちょくちょく顔を出そうと思っている」

ハルピュイア「じゃー次からは各地の名物でも持ってきて貰おうかしらねぇ」

魔王「ふふん、そういう事なら任せるがいい!」

ハルピュイア「すっごい笑顔ね……ただ、国長としてその発言は間違っているわよ」


248 :
みんなの暇つぶしさん:2011/01/02(日) 02:57:19 ID:ulwjkW5.
……
魔王(後は誰に伝えておくべきなのだろうか)

騎士「魔王様……」

魔王「真っ青な顔でどうしたんだ?」

騎士「……」ピラ

魔王「ああ、この間の採血の……」

学者B「どうかされ……うげぇ」

騎士「完全に一致したようです」

学者A「……最悪ですね」

学者C「これでいくと……次の魔物の王は、荒ぶる魔王様の力を多少なりとも引き継いでいるのでしょうか?」

魔王「……どうしたらいいんだろうなあ、これ」

騎士「知りませんよ。ご自身で責任を取って下さい」


249 :
みんなの暇つぶしさん:2011/01/02(日) 03:02:43 ID:ulwjkW5.
魔王「ここをこうすれば……」

学者A「しかしそれでは……」

学者B「……に対して加えてみるのも……」

学者C「非常に難しいですがここを……」

女勇者「相変わらずですねぇ」

側近「……研究が始まってもう半年になりますね」

騎士「ああ、こちらにいましたか。こちらが報告書になります」

側近「……そろそろ、南の大陸に対し直接接触するべき時なのかもしれないですね」


250 :
みんなの暇つぶしさん:2011/01/02(日) 03:07:53 ID:ulwjkW5.
戦士「本当にいいのか?」

魔王「ああ、学者達も国に帰ったし、この辺りの施設はもう使わないからな」

戦士「よーし、今日中にここを片付けるぞ。気合入れていくぞ!」

兵士「「おー!」」

側近「これは……どうされたんですか?」

魔王「ある程度先が見えたから、研究は終わりだ」

魔王「至急、協議を開く旨を……いつものメンバーでいいな」

魔王「いや、久々に料理でもしたいな。飽くまで晩餐会という事で招待しておいてくれ」


251 :
みんなの暇つぶしさん:2011/01/02(日) 03:14:25 ID:ulwjkW5.
魔王「それでは、研究終了を祝いまして、乾杯!」

「「乾杯!」」

断ち切る魔王「遂に、か」

魔王「話はどうする?重たい話しかないぞー。食後にするか?」

火の魔王「そうだな……わざわざ食事中に重たくなる必要はないものな」

水の魔王「成果としては芳しくなかったという事でしょうか?」

魔王「嫌な結果しか出せなかった、かな」

山の魔王「わざわざお前が主催したぐらいだ。そんな話だろうと思って、明日は空けてあるから私は構わんぞ」

深緑の魔王「あたしも同じくー」

魔王「流石に察して予定を空けておいてくれたか。それでは、後にするか」


252 :
みんなの暇つぶしさん:2011/01/02(日) 03:16:25 ID:ulwjkW5.
深緑の魔王「うっひゃー、相変わらずここのチーズはほっぺが落ちる事〜」

魔王「我が国の自慢だからな」

火の魔王「おまけにこのコーンスープも美味い事」

魔王「それは中庭で栽培したのものだ」

山の魔王「……何だと?」

断ち切る魔王「中庭の畑はそういう事か」

魔王「俺が手塩をかけて育てている。が、流石に最近は侍女達に任せているがな」

深緑の魔王「まあ、お前の変人っぷりは今に始まった事じゃないが、お前の所の料理長って凄い腕なんだなぁ」

水の魔王「そうですね……この深い味わい。とても素材だけでは出し切れませんものね」

魔王「いや、今日のは殆ど俺が作ったのだが?」

山の魔王「お前……」

火の魔王「俺らは知っていたけどな」

断ち切る魔王「既に馳走になった事があるからな」


253 :
みんなの暇つぶしさん:2011/01/02(日) 03:25:42 ID:ulwjkW5.
魔王「結果としては魔力をぶつけるか、深緑の魔王の種族の力を使う以外、方法を見出す事ができなかった」

水の魔王「それでは……いいえ、それであっても」

深緑の魔王「……」

断ち切る魔王「その答えが出た上で、お前はどうするというのだ」

山の魔王「この場に慈しむ魔王と女勇者がいるという事は……お前自身が行動するという事だとは思うがな」

女勇者「……うん、あたし達もそれについては聞かされていないから」

側近「……」


254 :
みんなの暇つぶしさん:2011/01/02(日) 03:28:12 ID:ulwjkW5.
魔王「十年くらいを目途に、俺はこの魔力と命を引き換えに魔剣になり、後世に託そうと思う」

女勇者「え……ええ?!」

水の魔王「そんな事が可能なのですか?」

魔王「魔力を結晶化……魔石を作り続けて足りない魔力は補うさ」

火の魔王「いや……そういう意味じゃなくてだな」

魔王「俺であれば可能ではある。が、いざ魔物の王が現れた時、魔方陣の容量を超える魔力が注げるかは分からないがな」

深緑の魔王「……そう」

水の魔王「深緑の魔王……」


255 :
みんなの暇つぶしさん:2011/01/02(日) 03:33:06 ID:ulwjkW5.
魔王「どの道、俺がお前を止める事はできないだろう」

魔王「お前はお前の好きにしてくれ……だが、できれば幸せを目指して生きて欲しい」

火の魔王「まさか深緑は、魔物の王の城を崩壊させる気でいるのか……?」

深緑の魔王「そうよ……荒ぶる魔王がそう言うなら、本当にあたしは好きにさせてもらうわよぉ?」

水の魔王「なりません!こんな……無意味です!このような犠牲など……」

魔王「それは深緑の魔王に言ってやってくれ。俺に至ってはどの道、表舞台から引かなければいけない身なんだからなぁ」

女勇者「それでも十年って……」


256 :
みんなの暇つぶしさん:2011/01/03(月) 00:35:21 ID:bTwcEqP6
魔王「祠の設計はある程度できている。誰にも近寄らせないよう罠が満載だ」

側近「それは逆に宝を目当てにする輩がいるのでは……?」

魔王「だから内密に行い、祠さえも口外しない事とするのさ」

魔王「何かあったら揉み消せ、握りつぶせ」

断ち切る魔王「お前でもそういう事を言うんだな」

魔王「意識は残すが、自力で逃げ出すとかは無理だからなぁ」

水の魔王「荒ぶる魔王は、その……考え直すおつもりは……」

魔王「無いな。後はのんびり暮らしてその時を待つさ」


257 :
みんなの暇つぶしさん:2011/01/03(月) 00:44:48 ID:bTwcEqP6
魔王「そんな訳だから、今後は基本的に一切手を貸さないつもりだからな?」

側近「そう……ですか」

魔王「まあ相談役としては対応しよう。最も、今後お前が俺に頼る事もそうそうないとは思うがな」

側近「そんな……私はまだまだ、貴方のようにはなれませんよ」

魔王「俺のようになる必要は無い……お前が描く未来に向けて一つ一つやっていけばいいさ」

断ち切る魔王「偉そうな事を言っているが、お前は本当にしていたのか?」

深緑の魔王「していない、というより未来を描いていないだろう」

火の魔王「行き当たりばったりだもんな」

魔王「お前らそれは酷くないか?」


258 :
みんなの暇つぶしさん:2011/01/03(月) 00:54:48 ID:bTwcEqP6
魔王「ああ、そうだ。南の大陸に関してだが、こちら側を知った戦士と僧侶を送り」

魔王「魔族も何人か送って向こうで生活させるってのはどうだ?」

火の魔王「あーあの二人の人間か。それは分かるが魔族を送るのはどういう意図だ?」

魔王「回りから信頼を得られた頃、ちょこちょこネタばらしをして、町や村から意識を変えていければなぁと思っている」

魔王「城下町とか歩いていると、向こうに移住してみたいっていうのもよく聞くからな」

水の魔王「ですが、それですと投獄される可能性も……」

魔王「そこは力がある魔族を限定して送るしかないだろうな」


259 :
みんなの暇つぶしさん:2011/01/03(月) 00:59:44 ID:bTwcEqP6
断ち切る魔王「何だかんだでしっかりと考えてはいるんだな」

魔王「自分の意思で共存派になった以上、何かしらはしないと立つ瀬がないからな」

山の魔王「……」

火の魔王「……」

深緑の魔王「……」

断ち切る魔王「……待て、三人は何故押し黙るのだ」

水の魔王「や、山の魔王まで……」

魔王「お前ら散々人を馬鹿にしているのにそれかよ」


260 :
みんなの暇つぶしさん:2011/01/03(月) 01:09:46 ID:bTwcEqP6
……
騎士「という訳で、一年以内には南に大陸に戻れるよ」

僧侶「と、唐突ですね」

戦士「というか、具体的にどうするかって決まっていなかったのか」

騎士「知らされてなかっただけで、魔王様はそういう予定を組んでいたと思うよ」

騎士「ただ情勢の変動を加味した上で自由に動け、って事で伝えなかったと思うけど」

戦士「南に戻る、か……」

騎士「こちらに永住したいなら言ってくれれば話を通すけども?」

戦士「いや、あんた達が本気で平和を目指しているのはよく分かった」

戦士「俺とて平和になるのであれば、全力を尽くそう」

戦士「ただ、共に旅した仲間と別れるのは惜しいがな」

騎士「……強く生きてくれ」

戦士「女性にそう慰められてもな」

僧侶「今生の別れという訳でもないですし、そこまで落ち込む事もないのでは?」

戦士「頼む、お前はもう何も言わんでくれ……」


261 :
みんなの暇つぶしさん:2011/01/03(月) 01:19:34 ID:bTwcEqP6
女勇者「後十年かぁ……」

魔王「老化による能力の低下を考えると、その辺りが限界だろうな」

女勇者「でも、いくらなんでも短いよ……」

女勇者「あたしはもっとお前と共に生きたいよ」

魔王「すまんな」

女勇者「謝るぐらいなら……いや、いいや。お前はそういう奴だもんな」

女勇者「うん、だからこそあたしはお前を好きになったんだもんな」

女勇者「良し!あの時に比べればまだまだ時間はあるし、魔王も健康体だ!」

女勇者「あたし、5、6人くらい欲しいなぁー」

魔王「……時々、お前のバイタリティが恐ろしく感じるよ」


262 :
みんなの暇つぶしさん:2011/01/03(月) 01:42:55 ID:bTwcEqP6
……























264 :
みんなの暇つぶしさん:2011/01/03(月) 01:56:54 ID:bTwcEqP6
……
魔王「早いものだな……」

女勇者「なら止めておく?」

魔王「まさかな。今更投げ出す訳にはいくまい」

少女「……お父さん」ギュウ

魔王「悪いな。あまり父親らしい事をしてやれなくて」ナデナデ

少女「そんな事、ないよ……」

側近「……魔王様、準備の方が整いました」

魔王「最後までその呼び方なんだな」

側近「私が慈しむ魔王という国長であろうとなかろうと、私が仕えるのは荒ぶる魔王である事に変りませんからね」


265 :
みんなの暇つぶしさん:2011/01/03(月) 02:10:54 ID:bTwcEqP6
火の魔王「老けたな」

魔王「当たり前だろう」

断ち切る魔王「いよいよか……」

水の魔王「……」

山の魔王「やはりこうしてまたいなくなるというのは、寂しくなるものだな」

魔王「今回はちゃんと言えるな。後の世は任せるぞ」

魔王「お前達も国の事は頼むぞ」

側近「かしこまりました」

騎士「その命令、確かに承りました」

魔王「……流石に戦士や僧侶はいないか」

女勇者「南の大陸に戻って生活しているからねぇ……こちらの大陸は任せてくれ、て言付かっているよ」

魔王「ありがたいな……頼もしい限りじゃないか」


266 :
みんなの暇つぶしさん:2011/01/03(月) 02:22:19 ID:bTwcEqP6
魔王(色々な事があったな……)

魔王(死の島で生まれ……賊を殺しまわり……そして魔王となって)

魔王(他国を滅ぼし……女勇者が現れ……南の大陸に渡った)

魔王(そしてまた女勇者が来て……自分の存在を知り……そして酒臭い)

魔王「待て!何だこの臭いは!!」

断ち切る魔王「お前はワインでいいんだったな」トクトク

深緑の魔王「どーもー」

火の魔王「俺ウォッカな」

魔王「聞けよ!」


267 :
みんなの暇つぶしさん:2011/01/03(月) 02:38:18 ID:bTwcEqP6
断ち切る魔王「せめて別れぐらい、乾杯で見送ってやろうと思ってな」

魔王「どんなせめてだよそれ!人が感傷に耽っている時によー!」

魔王「もっとさあ、何か無いのか!もう復活しないぞ?!話す事もできないんだぞ!?」

火の魔王「何かあって堪るかよ。今回は看取れるってのに……笑顔で送り出せなくなるじゃねーか」

山の魔王「お前が望んだ事だ。で、あれば、我々はこれを門出とし、祝って送らねばならない」

水の魔王「その為にも、昨晩頑張ってきたんですからねっ」

魔王(だから目が真赤なのか)

深緑の魔王(ウサギみたい)

火の魔王(やっぱ朝のテンションの低さは泣き疲れか)

断ち切る魔王(頑張る方向性が間違っているのだがな)


268 :
みんなの暇つぶしさん:2011/01/03(月) 02:41:31 ID:bTwcEqP6
女勇者「あたしは大丈夫だよ。そのつもりで、この十年共に過ごしてきたんだから」

火の魔王「お暑いですなー」ボソボソ

側近「いえいえ、これがそうでもないんですよ」ボソボソ

女勇者「ただでさえ来世とかがあるか不安の身の癖に、幼い娘はおろか、妻さえも置いてさっさと消えるんですもの」クドクド

女勇者「その覚悟、しっかりと受け止め、理解してあげなくちゃいけないもんね☆」トゲトゲ

深緑の魔王「言うようになったわねぇ……」

騎士「まあ、我々の十年とは重みが違いますからね」


269 :
みんなの暇つぶしさん:2011/01/03(月) 02:47:19 ID:bTwcEqP6
魔王「……最後の最後までこれか」

断ち切る魔王「シリアスな雰囲気にしてしまっては皆、泣いてしまうだろうからな」

深緑の魔王「まるであんただけは平気そうな言い方ね」

断ち切る魔王「まさか……親友を失うのだ。悲しくない訳が無い」

水の魔王「断ち切る魔王……」

魔王「お前はなんでそう、いい男なんだろうなぁ」

断ち切る魔王「おぞましい寒気が」

火の魔王「こいつ……最後の最後でカミングアウトとか最低だな」

魔王「そういう意味じゃねーよ」


270 :
みんなの暇つぶしさん:2011/01/03(月) 03:31:07 ID:bTwcEqP6
魔王「あーもういい……それじゃ乾杯と共に俺はいくからな」

山の魔王「うむ、これ以上ぐだぐだしてても仕方がないだろうからな」

火の魔王「是非ともそうしてくれ」

魔王「優しいのか酷いのか判断に困るな」

断ち切る魔王「それではグラスを手に取りまして」

断ち切る魔王「荒ぶる魔王の新たなる旅立ちを祝い、長き旅路の無事と成功を願いまして……」

女勇者「魔王……愛しているよ」
少女「お父さん……さようなら」

魔王「……二人とも愛しているよ。さようならだ」

断ち切る魔王「……っ乾杯!」


271 :
みんなの暇つぶしさん:2011/01/03(月) 03:45:09 ID:bTwcEqP6
この日を最後に最古の魔族は表舞台から消えた
そして同年、両大陸の人間、魔族の差を失くす法案も進められ
新しい時代の幕開けとして、歴史に刻まれる事となった

その後、魔物の王が現れる事無く
何百年と平和が続いたと言われる


272 :
みんなの暇つぶしさん:2011/01/06(木) 01:23:30 ID:0x2GGjNI
……
騎士「……魔王様」

側近「これでもう……あの後姿を見る事もないのですね」

断ち切る魔王「そうだな、杯を交える事もなくなったのだな……」

水の魔王「寂しくなりますが……落ち込んではならないのですよね」

騎士「兵士相手に本気で扱く姿も見られないのですね」

山の魔王「他国で直接物々交換や、買物をしている姿を見かける事も無くなるのか」

深緑の魔王「人の領土内で勝手に収集される事も無いのか」

火の魔王「宿の帳簿にあいつの名前が載っている事も無くなるのか」

女勇者(……どんどんしょーもない話に)

少女(……お、お父さん)


273 :
みんなの暇つぶしさん:2011/01/06(木) 01:28:11 ID:0x2GGjNI
女勇者「……この祠の罠まで起動ってあとどれくらい?」

騎士「三十分程ですね」

少女「……お母さん?」

女勇者「こんな事、すべきじゃないのは分かっているけど……けど、やっぱりもう一度くらい触れさせて」

女勇者「……魔王」グ

女勇者「……」グッグッ

女勇者「んなーーー?!」グッグッグッグッ

少女「お、お母さん?!」


274 :
みんなの暇つぶしさん:2011/01/06(木) 01:31:33 ID:0x2GGjNI
側近「ど、どうしたんですか?」

女勇者「抜けない!なにこれ、抜けないんだけど!!」グッグッ

断ち切る魔王「馬鹿な……貸してみてくれ」

断ち切る魔王「ぐ……!っふん……!これは……っ抜けん、ぞ!」グググ

火の魔王「どういう事だよ!」

深緑の魔王「あんの馬鹿!最後の最後でどんだけ地雷置いていくんだよ!」

騎士「思えば、魔法陣の研究ばかりでこっちの方は、大して実験らしい事はしていませんでしたからね」

断ち切る魔王「ふー……まさか抜く事のできない魔剣とは。魔方陣に鞘ごと突き立てるのか?」

水の魔王「あ、荒ぶる魔王らしいと言えばそれまでですが、いくらなんでもお命をかけてまで……」

女勇者「はあ、あの人は本当に……」

少女「……お父さん」ジー


275 :
みんなの暇つぶしさん:2011/01/06(木) 01:40:21 ID:0x2GGjNI
火の魔王「だけどよ……この状態で魔力を叩き込めるのか?」
水の魔王「問題はそこですよね……」
深緑の魔王「どーでもいいわよ、もう」
山の魔王「お前……」

少女「んしょ」ガチャガチャ

火の魔王「なあ、とりあえずここを出ないか?」
側近「それもそうですね」
騎士「罠が起動した時にここにいたら、恐らく魔王様方でも無事ではすまないのでしょうし」

女勇者「……気持ちは分かるけど、お父さんを戻してここを出よっか?」

少女「んー……よい、しょっと」スラーーー

「「「!!!」」」


276 :
みんなの暇つぶしさん:2011/01/06(木) 01:49:20 ID:0x2GGjNI
女勇者「……どういう……事?」

断ち切る魔王「これは恐らく……荒ぶる魔王の血、というよりは種族の血を引いている事が前提のようだな」

山の魔王「……だがそれは果たして、本当に意味があるのだろうか?」

火の魔王「例えば何百年後かに魔物の王復活」

深緑の魔王「そもそも祠の存在を誰も知らない」

騎士「bad end」


277 :
みんなの暇つぶしさん:2011/01/06(木) 01:54:40 ID:0x2GGjNI
火の魔王「例えば何百年後かに魔物の王復活」

深緑の魔王「伝説の魔剣の祠発見」

山の魔王「この剣、抜けぬぞ」

騎士「bad end」

火の魔王「……例えば何百年後かに魔物の王復活」

深緑の魔王「伝説の魔剣の祠発見」

山の魔王「荒ぶる魔王の子孫がいて、抜く事に成功」

断ち切る魔王「魔剣を使って魔物の王を倒したぞ」

騎士「normal end」


278 :
みんなの暇つぶしさん:2011/01/06(木) 02:00:03 ID:0x2GGjNI
水の魔王「あー……」

火の魔王「課題が多すぎるぞ……」

断ち切る魔王「……最高の置き土産だな」

山の魔王「下手に伝えても時の権力者に荒らされそうだな」

騎士「……とりあえず、その話はまた後にしませんか?」

水の魔王「近い内に協議を設けますね」

女勇者「はは、本当に最後の最後までご迷惑をおかけします」


279 :
みんなの暇つぶしさん:2011/01/06(木) 02:03:56 ID:0x2GGjNI
少女「お母さん……お父さんがした事って、大切な事だったのかな」

女勇者「どうだろうねー。今はまだ分からないかな」

女勇者「でも何時かそれが分かる時は来るよ。ただその時、きっとあたしはもういないと思うけどねー」

少女「……」

女勇者「だからこそちゃんと伝えていくのよ」

女勇者「ここに眠る魔剣があなたの大好きなお父さんだという事を」

女勇者「その魔剣が、魔物の王が甦った時、意味をもつ事を」

女勇者「っと、流石に難しすぎたかな」

少女「うん……よく分からない。でも」

少女「あたし、頑張る!だって、お父さんの事大好きだもん!」


280 :
みんなの暇つぶしさん:2011/01/06(木) 02:14:02 ID:0x2GGjNI
女勇者(……もう二度と会えないけれど)

女勇者(きっとこの子も魔王を迎えに行く事はできないけれども)

女勇者(必ずその時が来たら……迎えに行くから)

少女「お母さん……?」

女勇者「ごめんごめん。さ、行こっか」

女勇者(その為にもあたしは、前を向いて歩くよっ)


女勇者「魔王は死んだ……」 完






 次の話の為にはどうしても荒ぶる魔王その後が必要だった。
 因みに空白の十年間の間に
 人間への配慮として国長の呼称を国王に変更や
 荒ぶる魔王の南へのアプローチ案での一悶着等等
 何か色々あったりなかったり。




小話